
グスタフ・クリムトの展覧会が、東京・上野の東京都美術館で開催中だ。今回は日本過去最多となる25点以上の作品が並ぶ。スペシャルサポーターの稲垣吾郎さんと共に、クリムトの素顔を読み解いていく。
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展覧会を通し、稲垣さんの目にクリムトはどう映ったのか。
「激動の19世紀末のウィーンで、それまで抑制されていた概念を芸術によって解放した『解放者』なんだと思います。時代がこういう人を求めていたのでしょう」
クリムトは55歳で亡くなるまで、母と未婚の姉妹と共に暮らした。パートナーを持ち、モデルらとの間に何人も子どもがいたが、結婚はしなかった。
「芸術家特有の神経質で気むずかしい人間なのかなと思いきや、自分の肉親に深い愛情を注いで、守り抜いた人だなとも感じました。一方で、当時の裕福な人たちから絵の注文を受け、創作活動の支援を受けるなど、意外に人たらしというか、上手に世渡りをしていたんだなと思いましたね。生前評価されなかったゴッホらとは違って、世の中のバランスを見ながら仕事をする、ビジネスパーソン的な面も感じました」
稲垣さんとの共通点はあるのだろうか。その問いには、「ないですよ」とはっきりとした答えが返ってきた。
「僕は芸術家ではなく、つくられたものを忠実に表現する側です。もちろん使命感を持ってやっていますけど、ある意味、人任せなところがあります。作品を人に伝えて、そこにお客さんがいて完成する。画家は、自分で白いキャンバスに一から描く。文学も同じですね。そういう人たちには尊敬しかないです」
稲垣さんの代表作に舞台「No.9─不滅の旋律─」(2015年初演、18~19年再演)におけるベートーベン役があるが、ベートーベンはクリムトと同じくウィーンで活躍し、クリムトが生まれる35年前に亡くなっている。
展覧会の見どころの一つに、ベートーベンの交響曲「第九」をテーマに描かれた全長約34メートルの壁画「ベートーベン・フリーズ」の原寸大複製がある。黄金様式の代表作の一つで、本物はクリムトが若手芸術家と新しい芸術活動の拠点とした「分離派会館」に今も飾られる。