スイスで開かれた、有害廃棄物の国境を越えた移動を規制するバーゼル条約の締約国会議において、「汚れた廃プラスチック」の輸出入を規制する条約の改正案が採択され、それを主導したのが日本だった。アジアで影響力を増すという外交上の狙いはあるが、英断と評価する声も多い。
【写真】廃プラスチックの輸出入規制を議論したバーゼル条約締約国会議
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近年とりわけ問題視されているのが廃プラスチックだ。「汚れた廃プラスチック」を規制対象とする今回の改正の背景にも、プラスチックごみによる海洋汚染の深刻化が挙げられる。紫外線や波で劣化して5ミリ以下の細かいマイクロプラスチックになり、海洋生物の体内に取り込まれることで生態系全体への影響が懸念されるのだ。
日本の廃プラスチック排出量は年間約900万トン。17年は、このうち143万トンがリサイクル資源として輸出された。大半を受け入れていた中国が17年末に輸入を原則禁じたため、18年は中国への輸出が激減。一方でタイ、マレーシアへの輸出が増え、計約101万トンを輸出した。その中には、今回の採択で規制対象に盛り込まれた「汚れた廃プラスチック」も含まれている。
バーゼル条約の会合では廃プラスチック全体の規制には難色が示されたため、ノルウェーが昨秋、「リサイクルに適さないほど汚れた」ものを規制する付属書改正案を今締約国会議に向けて提案。日本はこれに賛同し、共同提案に回った経緯がある。
米ジョージア大などの推計によると、廃プラスチックが海に流出した最大の国は中国で、年間最大で353万トン。管理が不十分な上位20カ国にはタイやマレーシアも並ぶ。東南アジアは廃プラスチック問題のホットスポットなのだ。
アジア・太平洋地域のバーゼル条約締約国の担当者とのワークショップが昨年11月、秋田県内で開かれた。この際、環境省が中国の廃プラスチック輸入禁止の影響について各国の状況を聴いたところ、アジア各国からは「リサイクル施設のキャパシティーの問題や、行政の監視が十分でない面もあるので輸入規制を強化したい」との意見が大勢を占めたという。バーゼル条約の改正を主導した、環境省大臣官房審議官の松澤裕さんは言う。
「17年末の中国の廃プラスチック輸入禁止に伴って、自国の廃棄物処理にも腐心している東南アジアの国々が(先進国から流入する廃プラスチックの処理も負わなければならないという)さらに大きなプレッシャーを受けることになりました」(松澤さん)
日本が共同提案に踏み込んだ理由の一つには、このような東南アジアの事情がある。