「青魚は体によい」。なんとなくわかってはいたが、青魚が豊富に含む脂肪酸DHAと EPAは、認知機能にも影響するという。脳神経組織の約半分は脂質が占めている。
【グラフで見る】血液中のDHA濃度と10年後の認知機能低下のリスクの関係は…
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私たちの体で「脂質」といえば、皮下脂肪や内臓脂肪を想起しがちだ。だが、脳神経組織も多量の脂質を含んでいる。どんな脂質を摂取するかは、脳の質にも関連するようだ。
日本老年精神医学会副理事長で東京慈恵会医科大学附属病院メモリーセンター長の繁田雅弘医師は、診療の際、患者の食事内容に留意している。
たとえば、軽度の認知症がある70代の一人暮らしの男性の場合、会話に出てくる食事がいつも「ご飯とコロッケ」。コンビニで買い物をすると、レジ横のコロッケを見つけ、毎日続けて買い求めてしまう様子。
こうした同じ食事ばかりとる、またはつまみや菓子で食事を済ませてしまうという患者には、血液検査を行うことがある。繁田医師がチェックするのは、DHAとEPAの血中濃度だ。
DHAとEPAは必須脂肪酸と呼ばれる。体の中でほとんどつくることができないため、食事からの摂取に頼ることになる。DHAやEPAを多く含む代表的な食品が、青背の魚だ。
「DHAとEPAの血中濃度が極端に低ければ、サンマやサバなど青魚を食べるようアドバイスします。医療用のDHAとEPA製剤の服用を提案することもあります」(繁田医師)
なぜ、DHAとEPAが重要なのか。
「DHAやEPAをとっている人の追跡調査で、認知症の発症が少なかったという報告があるからです。クロスワードパズルなどの脳トレを熱心にやっている高齢者もいますが、青魚をとるなどして食事内容を改善する方が、よほど脳にいいと私は考えています」(同)
日本は超高齢社会に突入し、認知症高齢者数は増加の一途をたどっている。2012年には462万人だったが、25年には約700万人にものぼる見通しだ。認知症対策は急務であるにもかかわらず、現時点では認知症には完治を目指せる薬がない。製薬会社エーザイは先月、アルツハイマー型認知症の新薬候補「アデュカヌマブ」の国際臨床試験の中止を発表。そのほか大手製薬会社も軒並み新薬開発を断念している。そんななか、専門家らが注目しているのが、DHA、EPAという二つの脂肪酸なのだ。