認知症予防の一環として青魚摂取を推奨する動きは、自治体にも出ている。香川県の認知症高齢者支援サイトには、「EPA、DHAがしっかりとれる ちゃちゃっと作る魚のおかず」というレシピが並ぶ。もともと魚をよく食べる地域だが、瀬戸内海でよく捕れるハマチやサワラもメニューに入れ、1日1食魚を食べることをすすめている。

「18年、香川県の高齢化率は31.5%と過去最高を更新しました。認知症高齢者は20年度には5万人を超えると見られています。県をあげて認知症対策に力を入れており、16年からレシピを公開しています」(香川県健康福祉部長寿社会対策課副主幹の岡洋樹さん)

なぜ、DHAとEPAが脳にいいのか。名古屋学芸大学健康・栄養研究所所長の下方浩史医師に聞いた。

「脳神経組織の約50%を脂質が占めています。DHAは体内では主に脳細胞膜を形成するリン脂質の成分になり、脳や神経組織の発育と維持に欠かせません。脳内のDHA量が低下すると、認知機能低下の要因になることが、複数の研究からわかっています」

 EPAには血液を固まりにくくする作用があり、動脈硬化予防薬としても使われている。脳卒中などの脳血管障害は認知症の原因になるため、EPA摂取も認知症対策につながる。

 下方医師も研究者として参加した国立長寿医療研究センターの研究(図参照)では、60~79歳の男性232人、女性198人を対象に、10年後の認知機能低下リスクがどう変わるかを検証した。すると、血液中のDHA濃度が「中間」または「高い」人は、「低い」人に比べて、10年後の認知機能低下リスクが0.11倍または0.17倍低いことがわかっている。

 海外の研究でも同様の報告は複数ある。65歳以上を対象に7年間追跡調査した「Chicago Health and Aging Project」では、魚の摂取でアルツハイマー型認知症のリスクが60%低下。「Rotterdam Study」では、同じく魚の摂取でアルツハイマー型認知症リスクが70%低下した。(ライター・羽根田真智)

AERA 2019年4月29日-2019年5月6日合併号より抜粋