図版=AERA 2019年3月18日号より
図版=AERA 2019年3月18日号より
貧血治療における鉄分摂取の方法と吸収する仕組みの違い(AERA 2019年3月18日号より)
貧血治療における鉄分摂取の方法と吸収する仕組みの違い(AERA 2019年3月18日号より)

 鉄剤注射問題で日本陸連が「原則禁止」の方針を打ち出した。「結果を残さねば」と安易に行われてきた陸上選手をつぶしかねない悪習を断ち切れるのか。

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 昨年12月に駅伝強豪高校での不適切使用の実態が明らかになり、日本陸上競技連盟(以下、陸連)が原則禁止の方針を打ち出した鉄剤注射。肝機能障害などを引き起こす恐れがあるため、「行為自体はドーピングに近い」と陸連は2016年から警鐘を鳴らしてきたが、実は小学生の使用も懸念されている。

 整形外科医の鎌田浩史さん(52)が所属する陸連ジュニアアスリート障害調査委員会では、13年から、小中高生らを対象に調査してきた。12歳の中学1年生に鉄剤注射使用の回答があったことや、小学生に鉄剤サプリメントの使用があることから、適切なケアがなされているのか疑問視されている。

「そこまで広がっているのかと衝撃だった。当然子どもたち自身の意思ではない。(指導者から)貧血が治るからやろうねと言われて受けたようだ。(害のあるものだという)認識はありません。競技力を上げるためというよりも、これで栄養つけるよ、くらいのものかもしれない」と鎌田さんは顔をしかめる。

 16年度の調査では、中学生で鉄剤注射を使用した34人のうち4割以上もの選手が、「貧血がありますか?」の質問に「ない」と答えていた。

「つまりは4割以上が既往なし。本人が貧血で困っているわけでもないのに鉄剤注射を打たれている。ここが一番問題だと思う」

 選手たちが指導者から与えられるサプリメントについても、どんなものなのか、何の効果があり、副作用はないのか等々を認識しないまま服用するケースが少なくない。上意下達の指導体制が浮かび上がった。

 17年度の大学生対象の調査では、大学駅伝出場者の2割近い56人(17.4%)が鉄剤注射を「打ったことがある」と答えた。インカレ出場者と合わせた91人中、11人(12.1%)は、貧血と診断されていないにもかかわらず使用していた。

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