「もともと、何かしら不満があったから辞めているケースも多いので、まずはいい関係を作り直す。辞めた原因から、課題を見つけて、組織改善に生かすといった意識も重要です」

 では実際、企業はどんな方法で、アルムナイとの関係を作ろうとしているのか。

「金融事業グループのアルムナイメンバーにようこそ」

 チャットアプリを使って、11月からアルムナイとのコミュニケーションを始めたのはIT大手、伊藤忠テクノソリューションズ。中心となっているのは、片板弘礎(かたいたひろき)・金融事業グループ企画統括部部長だ。アルムナイ自体が新しい考え方で、多くの企業と同様、同社にも関係構築のノウハウはまだない。そこで全社的に取り組む前に、片板さんが統括する部署から試験的に運用を始めることにした。

 対象とするのは、金融事業グループの約130人のアルムナイだ。コミュニケーションにチャットアプリを使うメリットは、双方向で気軽にやりとりができる点にある。アルムナイ側はスマホでも見られるので便利。片板さんはアルムナイ側がどんな情報を知りたいか、リクエストを聞くことから始める予定だ。

 いったん社外に出ると、社内のニュースやイベントなどの情報を得るのは難しい。希望があれば、そうした情報も発信する。新規プロジェクトや求人情報などを出していくのもありだろう。

「元同僚の多くはいまも同じIT業界で働いています。これまでは、その人たちが案件を持ち込みたくても、個人的なツテを頼る以外方法がなかった。だから、『これからは会社として窓口を作る』ということを知らせる必要があります」(片板さん)

 チャットでは、匿名のアンケートで率直な意見を聞くこともできる。普段は実名でやりとりし、匿名にする際にはシステムを切り替えることで、会社側が個人を特定できないようにする。

「社内では当たり前のことが外ではそうじゃないかもしれない。外に出た人の客観的な声が、社内の環境改善につながれば、いまいる現役社員にも恩恵があるはずです」(同)

(編集部・石臥薫子)

※AERA 2018年11月19日号より抜粋