「任意後見であれば、家族や信頼できる専門家など自分で後見人を指定できます。頼む事務内容もすべての財産の管理・処分だけでなく、たとえば『不動産の処分を除く』など範囲を指定できます」

 任意後見は、判断能力があるうちに受任者と一緒に公証役場で契約する。契約後も元気なうちは効力は発生せず、認知症になって判断能力が低下すると、裁判所が「監督人」を選任して発効する。それまでは自由に財産を処分できるし、費用も発生しない。

「任意後見人は年に数回、監督人である弁護士などに収支報告等をしなければならないので、使い込みや不正はしにくくなっています。複数いる子どものうちの1人が後見人になった場合でも、監督人がいることでほかのきょうだいが納得する例は多いようです」

 判断能力があるうちにできる対策としてもうひとつ、「家族信託(民事信託)」という方法もある。任意後見と異なり、本人が元気な時から信託財産の管理や処分が可能で、リスクのある資産運用や相続税対策も可能になるというメリットがある。

「ただし、信託財産の名義が本人から親族など受託者に変更される点に抵抗を感じる人もいます。また施設入所契約などの法律行為ができないなど制限もあるので、場合によっては任意後見と併用が必要になります」

 家庭の事情に応じて、どの制度を使うのが最適か十分検討する必要がありそうだ。

 元気な親に対して、認知症になったときの備えに関する話は切り出しにくいものだ。実際、こうした理由からこれらの制度はあまり普及していない。

 しかし、認知症は2025年には65歳以上の約5人に1人が発症する(厚生労働省試算)「国民病」であり、だれにとってもひとごとではない。認知症患者と家族のお金を守るのは、「元気なうちからの話し合いと対策」が重要となる。(ライター・森田悦子)

AERA 2018年11月12日号より抜粋