「スコアが出るのを忘れていて、『早く帰って着替えたいな』というのが先走ってしまいました(笑)。皆が待ってるから『あれ』と思って、戻りました」

 そんなお茶目なところも高橋らしい。ショートは77.28点で首位発進を飾った。

「ショートだけでこんなに疲労困憊して、フリーはどうなることやら。でも緊張感は経験できたので、明日は思い切りやるという気持ちでいきたいです」

 と語っていたが、翌日のフリーは簡単にはいかなかった。

 まず緊張のあまり冒頭の振り付けを間違えてしまった。

「動揺してしまいました。緊張してるなと思ったら、焦ってジャンプに入ってしまいました」

 6分間練習ではトリプルアクセルを2度成功させていたが、本番はジャンプミスを連発した。終えてみれば、成功したのは冒頭の「3回転+3回転」だけ。あまりの不出来に、演技を終えた瞬間、高橋は笑い出した。

「いやあ最低ですね。練習でもここまでボロボロの演技をしたことはなかったです。2日間連続で試合での演技という難しさを実感しました。ここからは上げていくだけ。課題が見え、もっと強くなりたいと思いました」

 ショートとフリーをこう分析する。

「ショートは気持ちで持っていけたということは、4年前のような気持ちの強さは戻ってきています。でも精神を維持するだけの身体ができていないので、フリーでは足が動かなくなってしまった。練習の仕方、アップの仕方、勉強になりました」

 得点は195.82点で、若手との戦いのなかで総合3位。インタビューでは笑顔がこぼれた。

「目標があって、それをクリアしていくというのは幸せなこと。とても充実した時間を過ごせています。このままじゃ西日本選手権は本当にヤバイ。これからは4回転ジャンプもやりたいです。いやあ、それにしても4分キツかったなあ」

 選手通路へ向かいながら、関係者に何度も頭を下げる。今季の目標は、全日本選手権フリーの最終グループ(上位6人)。皆に愛される高橋が、幸せなスタートを切った。(ライター・野口美恵)

※AERA 2018年10月22日号