これによって国内約2700人の社員は、勤務時間のおおむね15%程度を日々の業務から離れて新たな価値を生み出すことに充てられる。デジタル・イノベーション部イノベーション・市場戦略課の上杉理夫課長は制度の目的をこう語る。

「各営業部がそれぞれの事業を深掘りし、競争力を高めてきたのがこれまでの商社です。一方、いま丸紅が目指すのは、社会・顧客の課題に対して、各部署や社内外の連携を重視し、価値や資産を掛け合わせて新たなビジネスを生み出すことです」

 富山さんは出社から始業までの時間帯や午後の2時間程度をこの制度に充てている。足元の業務から離れ、いわば自らが責任者として新たな事業構想を練り、提案する。

 とはいえ日々の業務が15%軽くなるわけではない。業務の棚卸し・効率化を進め、これまでと同じ成果を85%の時間で出せるようにする。そうしてつくり出した時間を活用するのがこの制度の趣旨だ。社としても報告業務など「内向きの仕事」の効率化・削減に取り組むが、重要なのは意識改革だという。

「このビルのなかにはあらゆる世界が詰まっています。今まで分断されていたそれが、つながろうとしている。その熱量、インパクトはとても大きなものがあると感じています」(富山さん)

 働き方改革が進む背景には女性の活躍もある。「男の職場」のイメージが強かった商社でも、女性社員は増えている。出産・育児といったライフイベントに応じて働き続けられるように各種制度の充実が図られ、三菱商事ではここ数年、出産を理由に退職する女性社員はいないという。

 生鮮品本部で子会社のサーモン養殖会社の管理業務(株主業務)を担当する濱本容子さん(37)も、同社の育児支援策を活用しながらキャリアを積んでいる社員のひとりだ。夫も三菱商事の社員で、現在は出向してチリに赴任中。濱本さんも昨年5月から今年3月まで、6歳と2歳(当時)の2人の子どもを連れて同じチリの会社で働いた。

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