トランプ氏は金氏と会う5日前に安倍氏とホワイトハウスで会談。共同記者会見で「首相にとって拉致問題が個人的にとても重要だとわかっている」と言ったそばから対日貿易赤字の話を持ち出し、語った。「首相は軍用ジェットや航空機、農産物などいろいろ、数十億ドル分を追加で買うと言った」

 実は安倍氏は4月、訪米時の首脳会談でも、「日本の防衛力強化のため、F35A戦闘機やイージスシステムなど高性能の米国製装備品の導入を進めている」とトランプ氏に伝えている。

 米朝首脳会談での拉致問題への言及と米国製兵器を日本が買うことは、トランプ氏にすればディールかもしれないが、日本にとって辻褄が合わなくなってきた。安倍氏が金氏との対話へ動くなら、なぜ最新鋭兵器の購入にこだわるのか。

 防衛省幹部は「実際は本丸の対中国の防衛強化をにらんだものだ」と語るが、安倍氏は日中にしても平和友好条約締結40年の今年、首脳往来による関係改善を唱える。5月の首脳会談では領海や領空をめぐる不測の衝突を防ぐ「海空連絡メカニズム」発足も成果に挙げた。

 ただ、安倍氏は昨年までの中朝との確執から「我が国を取り巻く安全保障環境は戦後最も厳しい」として防衛計画の大綱を今年中に見直す方針も示している。ぶれぬようにと自民党の国防族議員らは6月1日、防衛費増継続など新大綱への党の提言書を安倍氏に手渡した。

 米朝首脳会談を機に北東アジアが対話へと動く中、何のための防衛力かがより問われる。だが、整理整頓された説明は安倍内閣から聞こえてこない。(朝日新聞専門記者・藤田直央)