この点について福井医師は、性犯罪者処遇プログラムの実効性に問題があると指摘する。そもそも、刑務所内には衝動を起こすきっかけとなる女性も子どももいない。淡々と模範囚として過ごす人がほとんど。治療は、誘惑がある環境で行ってはじめて成り立つ。

 SOMECでは東京、大阪、福岡の3カ所で性犯罪の加害者ら月に400人近くが治療を受けている。男性が圧倒的に多いが、幼い男の子に性犯罪を起こすなどした女性も治療に訪れる。

 治療は、「認知行動療法」と男性ホルモンを抑制する「薬物療法」の併用。治療には3年から5年近く要するが、治療を継続した患者の再犯率は3%未満。

「ドイツの刑法学者のフランツ・フォン・リストは『最善の刑事政策とは最善の社会政策である』と論じました。罪を犯したら厳罰を与えるだけでなく、治療を含めた社会政策に本気で向き合うのが成熟した社会の在り方だと思います」

 福井医師は、再犯を防ぐには司法と医療の連携が重要という。性犯罪者は出所後に孤立や貧困に陥ると、再犯につながりやすい。その連鎖を断ち切るためにも、司法による処分を経た後は、治療につなげることが必要だ。さらに隔離するだけでなく「共生」が求められると語る。

「共生とは、性犯罪者を許すということではない。彼らが犯罪を起こさないよう、どう共に生きていくかを社会全体で考えていくことです」(福井医師)

(編集部・野村昌二)

AERA 2018年6月18日号より抜粋