沖縄県名護市辺野古海域の米軍基地建設に伴うサンゴ移植をめぐって、研究者が怒りの告発をしている。何が起きているのか。
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「論文を曲解され、怒り心頭です」
4月21日に沖縄県名護市で開かれた市民団体主催のシンポジウム。サンゴの移植研究で博士号を持つ東京経済大学准教授の大久保奈弥氏はこう嘆いた。
大久保氏が不信感をつのらせているのは、辺野古の米軍基地建設をめぐる防衛省の態度だ。予定海域には、絶滅危惧II類のオキナワハマサンゴを含む様々なサンゴが生息している。防衛省は工事の影響を受ける前に、約7万4千群体のサンゴを他の場所に移植する方針だが、問題はその時期だ。
「4月末までに移植」
防衛省沖縄防衛局が環境保全などについて指導や助言を得るため設置した「環境監視等委員会」は、「5~7月の繁殖期」と「7~10月の高水温期」を合わせた5~10月の間は「サンゴの移植をできるだけ避けることが適切」とし、「遅くとも4月末までには移植することが適当」と助言した。防衛省はこれを根拠に、4月末までに絶滅のおそれがあるサンゴの移植を終える方針だった。
委員会の助言のもとになったのが、沖縄県が2008年につくった「サンゴ移植マニュアル」だ。移植によるサンゴ保護活動をする民間団体らに向けたもので、移植の時期について「水温の高い時期、繁殖の時期を避けるべき」とする一方、何月から何月という時期は明示していない。このマニュアルが根拠に挙げているのが大久保氏の論文で、つまり防衛省の委員会の助言も、もとをたどれば大久保氏の論文に行き着く。大久保氏は言う。
「サンゴは産卵や放精に備えて生殖細胞が成長する3~4月に移植してストレスを加えると、産まれる子どもの数が大幅に減ることが、私たちの研究で確認されています。論文をきちんと読めば、移植に適さない『繁殖の時期』は5~7月の産卵期だけを指すのではなく、3~4月も含むことはすぐに理解できるはずです」