防衛省の委員会は、生態系の専門家ら有識者で構成されている。にもかかわらず、サンゴへの影響が大きい3~4月の移植を認めたのはなぜか。大久保氏はこう指摘する。

「私たちの論文を読んだ上で(3~4月を含む)今回の移植時期を決めているのであれば曲解です。県のマニュアルしか読んでおらず、単なる孫引きしかしていなければ、誤認・誤用に当たるのでは」

 サンゴの移植には、沖縄県の規則で知事の特別採捕許可が必要となる。防衛省は4月末までの移植を目指し、計9群体のオキナワハマサンゴなどの特別採捕許可を3月から4月にかけて沖縄県に申請したが、知事が許可を出さず、ひとまず4月中の移植は行われなかった。

 ただ、防衛省の姿勢は強硬だ。沖縄防衛局は、県の許可を得られていないことは「大変残念」とした上で、「今後の工事の進捗を踏まえると、移植をしなければ今夏にも工事による影響が生じかねない。沖縄県から特別採捕許可が得られ次第、速やかに移植をする」とコメントした。今夏にも本格的な土砂投入を行うため、委員会が「できるだけ避けることが適切」とした5~10月であってもサンゴ移植を辞さない構えだ。委員会の助言すら度外視するのであれば、もはや無軌道としか言いようがない。

 サンゴの移植技術は進歩してきたが、長期的な生存率は依然として低い。大久保氏は言う。

「環境監視等委員会が、急ピッチで進む防衛省の基地建設事業にお墨付きを与えるだけの機関になっていないか危惧しています。辺野古の埋め立て予定地と周辺海域に残る貴重なサンゴ礁生態系を破壊し、再生不能な状態に導くことがあれば、科学者として後世に恥ずべき行為と言わざるを得ません」

 環境監視等委員会の委員は、個別の取材には応じられない、と回答した。(編集部・渡辺豪)

著者プロフィールを見る
渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

渡辺豪の記事一覧はこちら