「ザ・スクエア」と「ラブレス」は2018年の米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。チラシを並べるだけで、「いやな感じ」が漂う(撮影/写真部・片山菜緒子)
「ザ・スクエア」と「ラブレス」は2018年の米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。チラシを並べるだけで、「いやな感じ」が漂う(撮影/写真部・片山菜緒子)

 いやな気分になるのに、おもしろい──。そんな共通点を持つ4作品が相次いで公開。いずれもカンヌで評価され、2作品はアカデミー賞にもノミネートされた。監督たちがすくい上げた「いま」とは。

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「ザ・スクエア 思いやりの聖域」は、スウェーデンの注目株、リューベン・オストルンド監督(43)による風刺劇だ。

 主人公は現代美術館のキュレーター。「この四角いスペース内では、すべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という参加型アート「ザ・スクエア」の展示を進めている。

 そんな折、彼は街で女性を助け、その際にスマホと財布を盗まれてしまう。怒った彼が取った行動が思わぬ波紋を呼び、さらに美術館のスタッフがホームページにアップしたある動画が、大炎上……。

 映画には格差や不平等、他者への無関心など、現代の「いやな感じ」がユーモアを交えながらあぶり出されている。

 オストルンド監督は、

「格差の広がり、SNSで注目されることが最大の価値になっている状況……現代には多くの問題がある」

 と話す。でも、これらの問題を根本的に解決するのは、個人の力では無理だ。

「映画にも出てくるように、スウェーデンには物乞いが多い。例えば彼らを助けるために富裕層の税金を1%アップするというのが社会の責任の取り方。道でトラブルに見舞われている人を助けるというのは個人の責任の取り方。現代社会には、個人と社会の両方で解決し、責任を取っていくべきことがたくさんある」(オストルンド監督)

 映画に登場するアート作品「ザ・スクエア」には、そんな現代社会でどう行動するべきか、考えさせる狙いがある。

「例えるなら交差点のようなものだね。交差点は文明社会のとても美しい発明だ。我々はいま交差点や交通標識のような新たな“社会契約”を構築していく必要があると思う」(同)

 オストルンド監督は、いまの時代を生きる監督たちが、同じように「現代」を捉えていると感じている。

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構想のきっかけは日本で起きた事件