「平昌五輪後の動きが思ったより速い。取り残されていた中国も、一挙に前に出てきた」

 さらに懸念のウラにあるもう一つの事情は、日本が北朝鮮と対話するハードルが他国よりも高いことだ。

 3月26日の参院予算委。4月中旬の訪米を調整中だった安倍氏に対し、民進党の白真勲氏は、米朝首脳会談への同席をトランプ氏に求めてはどうかと尋ねた。だが安倍氏は、日米朝首脳会談は否定しないものの、「やる以上は拉致問題で成果が見込まれる可能性がなければならない」と口は重たいままだ。

 実は安倍氏は「日朝首脳会談」の怖さを知っている。2002年に小泉純一郎氏が首相として初訪朝し、正恩氏の父の金正日総書記と会談。安倍氏も官房副長官として同席した。正日氏は日本人拉致を認め謝罪した。ところが、あわせて伝えられたのは「8人死亡、5人生存」。小泉政権は衝撃を受け、国交正常化交渉も一気に頓挫した。

 その頃から対北朝鮮強硬派として注目された安倍氏は、首相になっても「全ての拉致被害者の帰国」を掲げる。だが北朝鮮の態度は硬く、米中韓にとっても、核よりも優先度は低いままだ。

 日本はこの試練にどう臨むべきか。外務次官当時に小泉首相の2度の訪朝に対応した竹内行夫氏は言う。

「北朝鮮の非核化は日本自身の安全保障の問題だ。米朝首脳会談に向けては、そこに外交努力を集中することが望ましい。乗り遅れまいと慌てて日朝首脳会談をやるようであれば、禍根を残しかねない」

 いま安倍氏は「来月の日米首脳会談でしっかりと日本の立場を述べたい」と言うばかりだ。再登板から5年を超えた政権で、圧力の先にある対話に備え、いかに戦略を練ってきたのかが問われている。(朝日新聞専門記者・藤田直央)

AERA 2018年4月9日号