とはいえ記者にとって、子どもの教育費支出が最大となる50代で、この金額を毎月払うのは難しそうだ。途中で払えなくなって解約すれば死亡時と同様7割程度しか返ってこないので、払い込む金額は無理のない額に抑える必要がある。年金額を30万円に減らせば、支払いは月々3万1260円で済むそうで、実際このぐらいの年金額で契約する人は多いという。

 ただ、94歳でようやく払った額を取り戻せるというのが、正直ピンとこない。記者はすでにiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)を活用して投信などに投資し、老後の準備を始めている。50年もの時間があるなら、同じ額を株や投信で運用したほうがよほど高い成果を上げられる気がするのだ。

 この疑問に対し、FPの深野さんは、異なる視点のアドバイスをくれた。

「トンチン型年金はあくまで長生きへの備えなので、増やすことが主目的ならリスク資産のほうが効率は良いでしょう。ただし、リスク運用は将来いくらになるか確定しないという弱点がある。将来受け取る年金額を確定できるトンチン型年金は、その弱点を補うことができます」

 なるほど。公的年金だって今後は給付の水準が落ちるかもしれないし、リスク投資は将来いくらになるかはわからない。老後のお金に対する漠然とした不安は、こうした不確実性からきている気がする。そんな中で、トンチン型年金が決まった額を死ぬまで給付し続けてくれるなら、確かに心強い。

 また、トンチン型年金には「お金を使いやすい」というメリットがあるという。

「日本人はたとえ老後であっても、定期預金を解約したり株を売ったりして資産を取り崩すことに罪悪感を覚える人が多い。キャッシュフローとして振り込まれる年金であれば、心置きなく使えるのです」(深野さん)

 確かに貯蓄が上手な人ほどこうした傾向はありそうだ。運用の観点で有利とはいえない毎月分配型投信に根強い人気があるのは、こうした背景もあるのだろう。逆に、まとまったお金があると使ってしまう浪費タイプの人にも、定期的に年金を受け取る商品は向くかもしれない。

 とはいえやはり「94歳まで生きられなければ損をする」という点は気になる。しかし深野さんは「損得で考えてはダメ」とアドバイスする。トンチン型年金の目的は長生き対策であり、貯蓄や運用ではないことを忘れてはいけないのだ。

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