もちろん、今後必要とされる英語力は対面コミュニケーションの必要性にもよるだろう。例えばソフトウェア・エンジニアの世界では、世界中のエンジニアと協力しながら開発していくオープンソースプロジェクトが盛んだが、隅田さんによれば、英語でプログラムの説明書を読み書きする能力さえあれば、十分に活躍できる。リスニングやスピーキング力はなくても構わないし、読み書きは、自動翻訳でかなりの程度カバーできる。

 でも、せっかく時間も労力もコストもかけて英語を勉強してきたのに、手放すのは惜しい。絶対できたほうがいいはず。そう信じるのなら、テクノロジーをうまく使いこなし、ラクして生産性と英語力アップを目指せばいい。囲碁や将棋の世界ではAIが人間をしのぐ力をつけ、そのAIと対局することで人間も強くなっている。あらゆる最新技術を使い倒せば、今まで絶対無理だったネイティブレベルを狙える可能性だってあるはず。「英語カースト」の上位層──つまり翻訳者レベルの人たちの世界も今後は変化にさらされるという。自動翻訳は人間の翻訳者にとって脅威にもなり得るが、逆にうまく下訳に使えば生産性向上にもつながる。

 結局、テクノロジーの発達によって問われているのは、そもそもなんのために英語を勉強するのか、ということだ。

 アエラのアンケートでも、「仕事や研究のための英語学習は必要なくなるだろうが、映画や音楽の原作を楽しみたいとか、旅をするために人は学び続ける」「語学を学ぶのは、その国の文化を理解することにつながるから。深いコミュニケーションをするために、外国語を学び続ける意味はある」という意見があった。前出の隅田さんは、「多様性を身につけるには、世界が相対的だということを知ることが大事。語学の勉強がその入り口になるのは確かだ」と話す。(編集部・石臥薫子、高橋有紀)

AERA 2018年3月5日号より抜粋