1月16日、雇い止め対象者向けに送られた書類(撮影/写真部・片山菜緒子)
1月16日、雇い止め対象者向けに送られた書類(撮影/写真部・片山菜緒子)
非正社員を取り巻く歴史(AERA 2018年2月26日号より)
非正社員を取り巻く歴史(AERA 2018年2月26日号より)

 2013年4月に施行される改正労働契約法の影響で、理化学研究所(理研)で大規模な雇い止めが起こっている。対象者の中には厳しい生活を強いられる人もいる。

【図表で見る】非正社員を取り巻く歴史

 昨年亡くなった母親が入院をし、自宅で一人きりだったときのことだ。イシダさん(男性・60代)は実験をした。ある月は週3回、翌月は毎日、お風呂を沸かした。光熱費の差額を計算し、お風呂に1回入ると200円かかるとわかった。冬でも3日に1回にすることに決めた。

 事務業務員として理化学研究所(理研=埼玉県和光市)で働くイシダさんの給料は19万1100円。残業がなければ手取りは15万円台だ。母親の自宅で家賃は不要だが、持病の医療費に月2万円かかり、自分が亡くなったときのお墓や葬式の費用を妹に残すため、月1万5千円の生命保険も解約できない。車の維持費もかかる。過去10年で最も高い買い物は、2年前に壊れた冷蔵庫を買い替えた5万円だ。

 イシダさんは2000年から派遣社員として理研で働き始め、10年に直接雇用になった。1年契約を繰り返してきたが、昇給はない。ねんきん定期便で65歳から月約10万円の年金が支給されることは確認している。支給まで4年程度。こつこつためた貯金が約200万円あるが、現在のペースでお金を使うと1年程度しかもたない。イシダさんは3月末、約18年間働いた理研を雇い止めになる。

 安倍晋三首相が「働き方改革国会」と位置づけた通常国会が開かれるなか、「2018年問題」が迫る。08年の派遣切りから非正規労働者関連の法整備が進み、13年4月には改正労働契約法が施行。有期雇用が5年を超えれば労働者が無期雇用に転換できる「5年ルール」を定めた。改正から5年。今年4月から無期転換が始まるが、各所で雇い止めが起こっている。理研は規模も大きく、365人が雇い止めになる。

 1月16 日、07年から理研で働く研究アシスタントのキクタさん(女性・40代)は、所内で郵便物の回収に行った際、自身の所属先と名前が印字されたシールを貼った角2サイズの茶封筒を受けとった。3カ所、ホチキス留めされ、中にはA4のプリントが1枚入っていた。

「契約期間満了のお知らせ」

 人事部長名で有期労働契約が満了になることが説明された上で、退職連絡票の提出を求めていた。キクタさんは書類を一瞥し、直属の上司に告げた。

「書類は無視します」

 退職連絡票は期日までに出さなかった。キクタさんは言う。

「せめてもの抵抗です。書類に『腹が立った』と言う人は私だけじゃない。20年以上働いている人もいる。事業が縮小して人員削減が必要というわけでもなく、納得がいかない」

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