理由はほかにもある。事務業務員のタカノさん(女性・36)は改正労働契約法が施行されたニュースを見たとき、

「5年後にはクビになる」

 そう思った。理研がこれまで法律の改正に対し、場当たり的な対応をしてきたと感じているからだ。理研は当初、今回の雇い止めの対象となる研究アシスタント、事務業務員に当たる職は派遣会社に依頼していたが、10年からは1年契約の直接雇用に。理化学研究所労働組合(理研労)によれば、理研のOBが勤める派遣会社と理研の随意契約が問題になったという。事務業務員の仕事は週30 時間になり、派遣時代より収入は減った。派遣法にならい契約書では上限期間は3年となったが、「当該部署以外の公募において採用された場合はその限りでない」(理研の契約書から)と抜け道が残された。その後も就業規程の改定があったが、「さまざまな部署があり、部署を変えれば働き続けられた」(タカノさん)

 極めつきは無期転換の5年ルールを定めた13年の改正労働契約法への対応だ。理研は3年後の16年4月に就業規程を改正し、有期雇用の職員が働ける期間の上限を5年、その起算日を改正労働契約法が施行された13年4月にさかのぼった。つまり、16年4月時点で働く有期雇用者の契約満了を18年3月末とし、無期転換を逃れたのだ。その理由について理研に取材を申し込むと、文書で回答があった。

「当該就業規程の改正は、労働者側の意見も聴きつつ慎重に検討する必要があることから、労働組合とも議論を重ねてきたものであり、そのための時間もできる限り確保する必要がありました。結果的に16年時点で就業規程の改正となりましたが(中略)無期雇用を推進する改正労働契約法の趣旨を踏まえ、早期に無期雇用制度を導入するとともに、理研としては、積極的に無期雇用を拡大していく前提の下、有期雇用としての雇用上限については、13年4月からの起算としたものです」

 回答文書にあるように、理研は無期雇用の採用も実施している。今年3月で契約期限を迎える有期雇用の職員は496人いるが、4月以降、無期雇用の新しい制度に採用された有期雇用の職員も118人いる。

 ただ、無期職への採用者は全体の4分の1程度に過ぎず、新たに有期雇用の人材を採用している現状を考えれば、長年契約を繰り返してきたベテラン職員を切り捨てる理由は見えにくい。(文中カタカナ名は仮名)

(編集部・澤田晃宏)

AERA 2018年2月26日号より抜粋