もともと明るい性格。「五輪に行きたい」という発言が本気かどうかさえ、周囲には分からなかった。「化けた」のは11月のスケートアメリカ。シーズン前半で苦労していたプログラムが板につき、210点を超えて銀メダルを獲得。「もしかして行けるんじゃない?」と勢いづいた。全日本選手権に向けては「秘策」に取り組んだ。

「朝練の頭がボーッとして動かないときが、試合で頭が真っ白になる時と似てる。朝練でもどんな状況でもノーミスする練習をしよう」

 奇想天外だが、これが当たった。五輪代表をかけた全日本選手権の舞台。SPもFSも、「緊張して何も演技を覚えていない」と言いながら、すべてのジャンプを降り、213.51で銀メダル。代表争い圏外だったからこその無欲の勝利か、奇策の成果か。確実に言えるのは、身体能力が非常に高く、ジャンプの高さと幅があること。五輪の競技が午前中から昼すぎまでだと聞くと、坂本は、

「じゃあ朝練、ガッツリやります!」

 こんな若さあふれる受け答えもチャームポイントだ。世界ランクは22位。このまま調子を上げてメダルを獲得する「メークドラマ」もあり得る。

 かつては天才・伊藤みどり1人に重圧がかかり、金メダルを期待されたアルベールビル五輪で銀。以来、日本スケート連盟は「一人に重圧をかけない」強化策を敷き、荒川静香と羽生結弦が日本フィギュア界に金メダルをもたらした。

 新生チームジャパンの魅力は個性だ。孤高の王者・羽生に、同期の田中刑事が少年時代の心を思い出させ、宇野昌磨がライバル心をくすぐる。真面目すぎる宮原を、ひょうきんな坂本が笑わせる。新しいチームワークが、五輪メダルへの最後の一押しになるだろう。(ライター・野口美恵)

AERA 2018年1月15日号より抜粋