したがって、木造船の漂流が相次ぐのは、国連安保理の決議や各国独自の制裁によって経済が悪化しているのではなく、船主が利潤の追求に熱中するあまり、漁業者の危険に無頓着になる労働安全の問題としてとらえるほうがよいのではないか。

 板門店の共同警備区域における北朝鮮兵士の亡命は、国連軍司令部による動画の提供などで可視化されたためにセンセーショナルに取り上げられたが、特別な使命を帯びた高位の将校ではなく、一般の下士官の亡命であり、北朝鮮の体制が大きくほころんだために起こったというわけではなさそうだ。

 わたしたちは北朝鮮がらみで何かが起こると、すぐに北朝鮮の経済状況や政治の安定性に問題があると考えがちだが、ここ最近起こっている事象から見える北朝鮮の姿は、中長期的な政策の実行、商品経済、利益重視の経営の発生といった、ステレオタイプではとらえきれない変化に起因している。北朝鮮を見るとき、個々の問題の裏にある理由について、より深く事情を追求していく必要のある時代に差しかかっていると言える。(環日本海経済研究所・三村光弘)

AERA 2018年1月1-8日合併号より抜粋