プライバシーを守るための明確なルールはない。見守られている半面、不安を抱く人もいる(撮影/写真部・片山菜緒子)
プライバシーを守るための明確なルールはない。見守られている半面、不安を抱く人もいる(撮影/写真部・片山菜緒子)

 世には正義もいりゃ悪もいる。先端技術が生活や捜査で活躍するのは心強いが、ハサミと同じ、使いようだ。人々を監視する最先端技術には便利さもあるが、一方で危うさもはらんでいる。

警察は、捜査対象者の車にGPS(全地球測位システム)端末を装着し行動を常時監視していた。しかも裁判所の令状を得ず、対象者に無断で。

「犯罪捜査のためなら国民を監視してもいいというのは、不気味ですし、明らかにプライバシーの侵害です」

 この事件を担当した、亀石倫子(みちこ)弁護士は振り返る。

 2013年12月下旬、広域窃盗事件で同月上旬に逮捕された大阪府在住の男性(40代)の弁護をすることになり、大阪府東警察署の留置施設内で男性と接見した。すると男性は、自らの罪を認めた上で、こう訴えた。

「警察は僕の車にGPS端末を付けていた。犯罪捜査のためだったら、こんなことまでやっていいんですか」

 逮捕される数カ月前、男性は自分の車の底にGPS端末が取り付けられているのを発見した。以前から男性は、車で他府県に行っても、行く先々で「なにわナンバー」の車がついてきているのが気になっていた。「スマートフォンの位置情報でも把握されているのか」などと考えていた時、共犯者が自分のバイクに端末が取り付けられているのを見つけた。男性は自分の車にも、と疑い、車の下に潜ってみると、磁石で取り付けられていた端末を発見したという。

「罪を犯したことと令状のない捜査は別問題。どこに行っても同じご当地ナンバーの車がついてくれば、誰でも気持ち悪いと思うはずです」(亀石弁護士)

 そこで弁護団を結成し、GPS端末をレンタルし、実際に車に取り付けて独自に実験。裁判の過程では、大阪府警がGPS端末を男性や共犯者らの車やバイクに最長で数カ月間、計19台に取り付けていたことが分かった。しかも事件とは無関係の女性の車にも、だ。

 裁判は最高裁まで争われ、今年3月、最高裁大法廷は裁判所の令状なしに捜査対象者の車などにGPS端末を付ける捜査を「違法」とする判決を言い渡した。

 亀石弁護士は言う。

「警察は犯罪捜査のために必要だと思えば、プライバシーなど関係なく、国民を監視する。そういう姿勢が明らかになった」

(編集部・野村昌二)

AERA 2017年12月11日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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