「戦後しばらくは、日本の方向性を決めるための真剣な論じ合いが背景にあった。今は目の前の聴衆へのパフォーマンス目的で、ブラックジョークのうまさが答弁のうまさだと勘違いしていることから生まれている」

 冒頭の務台氏の失言は、まさにこのパターンだろう。

●見たいものしか見ない

 一方、認知神経科学者の下條信輔・カリフォルニア工科大学教授は、失言は聴衆によって引き出される部分もあると語る。

「人間は無意識的に、話している相手を考えてしゃべっている。政治家は特にそういうテクニックに長けている。目の前の聴衆に受けるかを考えて話した結果、他の社会集団から見れば許されない発言をしてしまうのです」

 失言の多くが「内輪」の場で発せられていることからも、この心理が読み取れる。日本ではまだ失言扱いされるが、米国ではもはやそれが失言とすらとらえられず、トランプ政権誕生にまでつながったと下條教授は言う。

「失言増加の理由を政治家のレベル低下だけに求めるのは危険です。受け手側の変化にも注意を払わなければ」(下條教授)

 人は聞きたい、信じたい話に耳目を開き、受け入れる傾向がある。ネットの普及でその傾向はさらに強まっている。近現代史研究家の辻田真佐憲さんは、ネットの普及で左右を問わず既存メディア全体に対する不信が広がっていることにも注目する。

「政治家側もその風潮に乗っかり、失言に対するマスコミ経由の批判を『マスコミは信用できない』『文脈を無視して切り取られ、真意がゆがめられた』といった言い方で切り抜けることができるようになった」

●しつこく覚えておく

 マスコミなどを通じた幅広い層への事実と信念の訴えよりも、特定の集団だけへの発言に軸足が移れば、失言の量も増える。失言を本当に反省し、再発防止をしようというモチベーションが生まれにくいのも当然だろう。

「政治家の発言についてすべて生のソースにあたって確認することには限界がある。メディアの力が失われれば、困るのは国民のほうです」(辻田さん)

 では、どうするか。ライターの武田砂鉄さんは、「政治家の失言をしつこく覚えておかなければいけない」と強調する。

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