「メディアは失言ばかり取り上げて政策論争をさせないという批判がありますが違うでしょう。失言は政治家の本音を表し、その向こうに政策がある。失言=本質と考え、揚げ足を取り、言葉尻をとらえ続けていく必要がメディアにはあると思います」

「誤解を与えた」と言い逃れ、放置すればいずれ国民も忘れる、という成功体験を政治家に与えてはいけないと武田さんは言う。

 失言の増大に加えて重要視すべきは「撤回」の流行だ。言語学者の加藤重広・北海道大学大学院教授は最近の傾向として
「あとで撤回すればいい、という気のゆるみが政治家に出てきているのではないか」と指摘する。

 失言のあとに「撤回」「取り消し」といった言い訳を重ねているケースが目立つ(表)。山本有二農林水産大臣に至っては発言を一度「撤回」した後「冗談を言ったらクビになりそうに」と自ら蒸し返し、再度撤回する羽目に陥っている。

●撤回で真意探りづらく

「撤回とは、本来何か効力のあるものに対して言うこと」と加藤教授は指摘する。明らかに発言内容に事実誤認があった場合や、国会の議事録から削除が必要な場合ならば適切な言葉かもしれないが、ここ1年で繰り返されている失言はほとんどそういったケースにはあたらない。

「発言を失言だったと認める場合『あれは間違いでした』と非を認めるまでが本来のあり方。『撤回』すると追及する側も矛をおさめやすくなるから安易にこの言葉が使われているが、もっと厳密に使ったほうがよいのではないでしょうか」(加藤教授)

 撤回して「なかったこと」にすれば、それ以上の追及は「しつこい」「蒸し返すな」とかわすこともできる。失言を生み出した真意を探りづらくもなる。

「撤回」しなかった政治家もいる。冒頭の務台氏もその一人だ。

「撤回をしてもしょうがないでしょう。人を傷つけているので、謝罪するしかない」

 ちなみに長靴業界が儲かっているかどうかについて発言後に経済産業省に確かめたところ、わからないと言われたという。

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