「僕がこの状態でいても母は決して喜ばないと思ったんです」

 榎本さんは、日本人の場合、愛着の対象は死んでも心の中に生き続けるため、現実を直視し思い切り悲しむことが大切だと話す。

「配偶者や友だちなど、グチを聞いてくれる人がいることが大切。そうして心の中にしっかりとした居場所をつくり、心の中に生かし続けることが大事。逆に、対象喪失という事実から目を背け、一心不乱に仕事に没頭したりするばかりでは、いつまで経っても喪失というつらい現実を消化することはできません。これは母親に限らず、配偶者や子どもなど、大切な人を亡くした人も同じです」

●自分の人生を生きる

 終活コミュニティー「マザーリーフ」を主宰する、葬儀社「ライフネット東京」代表の小平知賀子さん(55)は、こう話す。

「何をしても100%はありません。見送り方にしても治療法にしても、その時はわからないなりに最善のことをしてきたと思います。そんな自分を容認してあげましょう」

 実は小平さんも今年3月、母を急性白血病で亡くした。享年84。愛情の深い母だった。

 今も夜寝る時など、母のことを思い出し、会いたいと思う。余命を告げたほうがよかったのか、抗がん剤をやめさせればよかったのか、病院を変えればよかったのか……。治療中のそんな後悔も押し寄せてくる。それでも少しずつ、悲しみや後悔と折り合いをつけていると話す。

「まずは、頑張れた自分をほめてあげてください。これからも自分の人生を生きていくのですから」(小平さん)(編集部・野村昌二)

AERA 2017年7月10日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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