今の日本は、観念だけが誇大化していっている。「中国、北朝鮮、韓国は許せない。こいつらのせいで日本はだめになっている」「憲法があるから日本がだめになっている」と。従軍慰安婦や南京大虐殺がなかった、日本の兵隊は世界一倫理的だったといった話は、観念だけでつくられた保守派じゃないと言えないことです。

 生長の家高校生連盟の歌に「愛国の情 父に享(う)け/人類愛を 母に享け」という歌詞がある。愛国心だけじゃダメなんだ、愛国心を相対化する人類愛が必要なんだと思いますね。天皇の話もするし、日本の国家のすばらしさも言うけれども、同時に世界に困った人がいたら、皆で助ける。民族主義なんて軽く超える。そういう気持ちがあったので、僕はネトウヨにならなかったのだと思います。戦争体験のある人が戦争の怖さを語りつぐように、愛国心体験のある人が、愛国心の怖さを語っていくべきだと思います。(談)

<鈴木邦男さんが薦める三島由紀夫「愛国心」>
 実は私は「愛国心」という言葉があまり好きではない。何となく、「愛妻家」という言葉に似た、背中のゾッとするような感じをおぼえる。(中略)この言葉には官製のにおいがする。また、言葉としての由緒ややさしさがない。(中略)では、どういう言葉が好きなのかときかれると、私は去就に迷うのである。愛国心の「愛」の字が私はきらいである。自分がのがれようもなく国の内部にいて、国の一員であるにもかかわらず、その国というものを向う側に対象に置いて、わざわざそれを愛するというのが、わざとらしくてきらいである。

鈴木邦男(すずき・くにお)
1943年福島県生まれ。一水会元最高顧問。のりこえねっと共同代表。早稲田大学の学生時代は、民族派学生組織・全国学生自治体連絡協議会の初代委員長を務めた

AERA 2017年5月1-8日合併号