チャンスは1回だけ。失敗は許されない(※写真はイメージ)
チャンスは1回だけ。失敗は許されない(※写真はイメージ)

 仏ルーブル美術館で3月、1日限定の花見が開かれる。日本から桜の枝3千本を輸出し、開花調整をしながら一斉に咲かせるという壮大な挑戦だ。

 ルーブル美術館側の提案で動き出した試みで、代理店を通じて企画を担うことになったのはフラワーデザイナーの赤井勝さん(51)。各国大使夫人向けの生け花教室をしたり、北海道洞爺湖サミットで装花を手がけたりした花の職人で、そのプロ意識から自らを「花人」と呼ぶ。

●虫見つかれば燻蒸処分

 チャンスは1回だけ。失敗は許されない。3月27日午後7時30分からの約3時間半、ルーブル美術館の展示ホールで、日本から枝切りし、ざっと1万キロを空輸して持ち込んだ桜を一斉に満開にさせる。その下で和食を食べながら、フランス人招待客らに花見を楽しんでもらうという日仏文化交流の一大プロジェクトだ。

 経験豊富な職人をもってしても、今回の仕事は難度が高い。「失敗した時の夢をすでに2、3回見ました」と赤井さんは笑う。

 植物検疫の厳しいフランスでは、虫が一匹でも見つかれば、全ての枝が燻蒸(くんじょう)処分となる。うまく持ち込めても、花見当日に桜が咲かなければ意味がない。

「これまで担当した企画とはプレッシャーが違う。開花調整と輸送がクリアできるかだ」

 企画が提案された昨秋から念入りな準備を進めてきた。花の専門家としての知識や技、人脈を駆使した「花見輸出プロジェクト」の作戦は、こうだ。

 持ち込むのは、この時期に開花調整がしやすい啓翁(けいおう)、東海、ソメイヨシノ、しだれ、八重の5品種。震災の被災者支援の思いを込め、福島や本を含む全国8地域の生産者から買い付ける。手荷物として飛行機で輸送できるぎりぎりの長さの約2・5メートルに切りそろえた計3千本の枝だ。生産者の協力で、様々な温度や湿度の下で各品種が咲く早さなどを測る実験を始めている。そのデータに基づき、持っていく桜の枝を選んだり、開花調整のための環境づくりに活用したりする。

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