売却や賃貸を希望して不動産会社に相談した結果、断られたり買い手が見つからなかったりする場合は、自治体の運営する空き家バンクに登録し、買い手・借り手が現れるのを待つのも手だ。仲介手数料を得るという目的がある不動産会社と違い、販売希望額が低額のものや、不動産会社が「売れにくい」と判断するものでも扱ってくれる。

「不動産に対するニーズの多様化に、今の不動産業界は対応できていない。不動産会社に『売れない』と言われても、それは今の不動産会社の枠の中で売れないだけかもしれず、あきらめる必要はありません」

 と中川さん。たとえば今、空き家を地域の交流の場や保育施設、NPOの活動拠点などにし、街を活性化させようという動きが全国的に広がりつつある。しかしこうした活動のネックになっているのが、使える空き家を探し出すことの難しさ。マッチングができていないだけで、意外なところにニーズはある。

●流通は多様化の流れ

 こうしたニーズに自治体として注目したのが東京都大田区。公益のために空き家を使いたい人と、空き家の所有者をマッチングする「空き家等地域貢献活用事業」を2014年12月から行っている。これまでに5件のマッチングが実現し、空き家を英会話サロンやグループホームなどに様変わりさせている。

 貸し手・売り手側の情報発信だけでなく、物件を借りたい・買いたい側のニーズをホームページ上で公表しているのは、秋田市を拠点に活動しているNPO法人「住まい安心サポート秋田」。希望エリアと「駐車スペース2台」「事務所開設可能」といった条件や予算などの情報を掲載している。空き家を借りたい、買いたいと同NPOに連絡を取ってくる人は、空き家所有者の実に3倍にも上るという。地方だから空き家のニーズがないと決めつけるのは早計だ。

 個別性の高い空き家の魅力を発信できる流通が、今後広がっていくのではと期待するのは前出の中川さん。

「たとえば『家いちば』(http://www.ieichiba.com/)という空き家や古ビルの情報掲示板では、老舗のジャズ喫茶に2千枚のレコード、スピーカー付きという物件が掲載されています。これはこれまでの不動産流通には絶対にのらない情報です」

 家いちばは15年10月に運営を開始。全国から寄せられた空き家情報を無料で掲載しており、売買は直接交渉になる。まだ片づけができていない、値段が未定、親の所有、居住中で将来売りたいなど、通常の不動産流通にはのせられないような物件も掲載可能だ。

「流通させる人が知恵を絞れば、空き家はこれから面白くなるはずです」(中川さん)

(編集部・山口亮子)

AERA 2017年1月23日号