●来年帰ってくる「英雄」

 そんな与党セヌリ党が期待する韓国の「英雄」が来年1月、帰ってくる。任期が今年12月末で切れる国連の潘基文(パンギムン)事務総長(72)。「歴代事務総長で最も何もしなかった」(日本外務省幹部)と評判はさんざんだが、韓国では苦学の末、外交官になり、外交通商相を経て、国連事務総長まで上り詰めた立志伝中の人でもある。

 次期大統領選の各種調査ではトップを走り続け、与党から擁立論が出ていた。しかし、朴氏をめぐる疑惑で与党の支持率が下がると潘氏も下落。リアルメーターの11月第5週の支持率は18.2%で2位だった。

 潘氏は11月28日、日本メディアとの合同記者会見に応じた。「帰国後、母国のために何ができるのか、友人や韓国社会のリーダーと話し合いたい」。立候補に含みを持たせた。

 潘氏を知る韓国外交省の幹部は立候補を「半々」とみる。「英雄」が政治で傷つくのを見たくないという韓国人も少なくない。事務総長が退任直後に政府の役職に就くのは慎むべきだとの国連総会決議もある。

「出ない」となれば、与党は混迷する。潘氏ほど支持を集められる人物は現時点で与党には見当たらない。

 そんな中、次の大統領に最も近い位置にいるのが「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)・前代表(63)だ。リアルメーターの11月第5週の支持率は20・7%でトップだった。前回の大統領選に出ており、知名度も高い。

 とはいえ、文氏が今回浮上したのは朴氏と与党が沈んだからに過ぎない。「文氏は伸び悩んでいる。本来なら支持率は30%になってもいい」という与党関係者もいる。

 急転直下の大統領選。誰が次の「青瓦台」の主になるのかまだ見通せない。(朝日新聞ソウル支局・東岡 徹)

AERA 2016年12月12日号