だが、ここまで「反米」をむき出しにするのは、ラオスで9月に催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会合の間に予定されていた米比首脳会談を、オバマ氏にキャンセルされたからだろう。ドゥテルテ氏が就任以来、最優先課題として取り組む麻薬撲滅作戦をめぐり、米国は「人権上問題がある」と批判。これについて記者会見で聞かれて激高し、オバマ氏に暴言を吐いたためだ。

 ドゥテルテ氏はいったん「後悔している」とわびを入れ、会議の控室でオバマ氏にあいさつしたが、「部下が話をする」とすげない扱いをされたという。カチンときたのだろう。その後の米ASEAN首脳会議を欠席。最後の東アジアサミットでは、用意された南シナ海問題の原稿を捨てて、かつて米軍がフィリピンで行った蛮行の写真を持ち出して、人権問題批判に反駁(はんばく)した。

 バランスシートを見れば、暴言に過剰反応した米国の大損だ。対中アジア政策の要が機能しなくなり、当面、米比関係が好転する見込みはない。

●日本には好感情持つ

 一方、ドゥテルテ氏の対日感情はすこぶる良い。ダバオ市長時代、日系人や支援団体と交流した。地元ミンダナオ島で、フィリピン政府とイスラム教徒組織との和平交渉を日本政府が支援してきたことも評価する。

 安倍晋三首相は、米国との仲を取り持ち、南シナ海問題でさらに中国寄りにならないよう、くぎを刺すことができるだろうか。南シナ海の「法の支配」を訴えながら、欧米の関心事であるフィリピン国内の「超法規的殺人」にどう触れるか。

 対米追従と言われがちな日本の外交、ここは腕の見せどころである。(近畿大学国際学部教授・柴田直治)

AERA 2016年10月31日号