就任後4カ月で「麻薬との闘い」の死者は4千人超。警官による殺害は半数足らず。残りは自警団などとされ、口封じ目的が多そうだ。それでも国民の支持は圧倒的だ(写真:gettyimages)
就任後4カ月で「麻薬との闘い」の死者は4千人超。警官による殺害は半数足らず。残りは自警団などとされ、口封じ目的が多そうだ。それでも国民の支持は圧倒的だ(写真:gettyimages)

 フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(71)が日本にやってくる。アジアの安全保障環境を一変させかねない「暴言王」に日本はどう向き合うべきか。

 ドゥテルテ氏は10月25日から3日間、東京に滞在する。注目を集めるのは、オバマ米大統領ら世界の指導者に向かって罵詈雑言を連発していることに加え、独立以来、一貫していた対米重視政策を転換し、南シナ海で領有権を争ってきた中国との融和にかじを切ったからだ。

 その中国を21日まで訪問したドゥテルテ氏は最大級のもてなしで迎えられ、習近平(シーチンピン)国家主席らと会談。南シナ海問題を棚上げして経済協力を進め、関係改善することで合意した。

●軍事力でかなわぬなら

 アキノ前比大統領は中国との2国間協議を拒み、常設仲裁裁判所に訴え出た。ドゥテルテ氏の就任直後の7月に出た判決は、中国による岩礁の埋め立てを国際法違反と認定するフィリピンの完勝だった。中国は「紙くずだ」と判決無視の姿勢を崩さない。にもかかわらず、ドゥテルテ氏は直接対話に臨んだ。

 発言は揺れる。中国での対話で「判決には触れない」と言ったり、「領土で取引しない」と強がったり。総合すると、「軍事力でかなわぬ以上、せめて紛争海域への自国漁民のアクセスを認めさせたい」とのスタンスのようだが、中比首脳会談の詳細は不明だ。

 訪中で投資や援助を呼び込むとの思惑もあった。実際、フィリピンから400人もの財界関係者が同行し、135億ドルの経済協力を取り付けた。

 一方、フィリピンの対米関係は1946年の独立以来最悪の状況にある。米比合同軍事演習が12日まで行われたが、ドゥテルテ氏は「これで最後」と宣言。テロ対策で駐留する米兵の帰還を求めた。2年前に結んだ米比新軍事協定も見直すという。さらに中国では「米国と縁を切る」とまで宣言した。

 米国の植民地から独立後も巨大な米軍基地が居座ったフィリピンでは、50~70年代に学生時代を過ごした世代に反米感情を持ち続ける人もいる。ドゥテルテ氏もその一人だ。さらに若いころ、米国にビザ申請を却下されたことを根に持っている。

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