スマート社員には、金森さんが選んだ「勤務時間限定」と、「業務範囲限定」の計2タイプがある。正社員に戻ったり、再びスマート社員に切り替えたりといったことも本人の希望に応じてできる。今はグループ3銀行合計で160人ほどのスマート社員がいる。

●二重構造の是正が必要

 金森さんは会社員の夫と共働きで2児の母。「勤務時間限定」の働き方を選ぶ前は、保育園に通う長男の迎えにはいつも午後7時ギリギリに滑り込んでいた。小学6年の長女が小さかったころ、病気にかかっても平日に病院に連れていけず、重症化してしまったこともあった。

「閉店間際に来店したお客さまへの対応を同僚にお願いして帰ることもありました。でも、週に一度や二度ならともかく、あまりにしょっちゅうだと言いにくいですよね」

 今は制度上「残業なし」という条件が明確なので、そうした気兼ねはしなくて済む。子どもが手を離れたら正社員に戻る選択肢も保証されているため、安心してスマート社員を選ぶことができたという。

 勤務時間や勤務地を限る「限定正社員」は、ユニクロを展開するファーストリテイリングや、国内小売り最大手のイオンを始めとする多くの企業が導入している。深刻な少子高齢化で働き手が減るなか、子育て介護といった個々の事情に合わせた働き方の選択肢を増やさなければ、企業側も優秀な社員を確保できなくなってきたからだ。転勤や残業といった面で無限定な働き方を強いられがちな正社員と、雇用の不安定さと低賃金に不安を感じる非正社員。両極端の働き方だけを前提にした雇用システムはもう限界だ。

 企業が多様な働き方のメニューを用意するにあたって、個々の社員が働き方を変えた時に不透明な形で処遇が大きく変わったり、働き方が異なる社員との間の処遇の差に納得できなかったりすれば、組織全体のモチベーションに悪影響を与えかねない。りそなのように透明性が高い同一労働同一賃金の制度がベースにあれば、社員の納得感が高い仕組みをつくりやすい。

 日本総研の山田久チーフエコノミストはこう指摘する。

「正規・非正規の二重構造の是正と、ダイバーシティーに対応した働き方の実現。この両面において、同一労働同一賃金は重要な前提条件なのです」

(編集部・庄司将晃)

AERA 2016年9月5日号