当時、りそなは経営再建のまっただ中だった。国内金融機関の不良債権問題が深刻化していた03年、経営危機に陥ったりそなに政府は2兆円ほどの公的資金を注入し、実質国有化。りそなは人員削減や賃下げといった厳しいリストラを迫られた。男性の正社員が大量に辞めたうえ、新卒採用も一時ストップ。残った社員の力をフル活用する必要に迫られた末の窮余の策が「同一労働同一賃金」だった。

 全社員の4割ほどを占めるパート社員の潜在力を引き出せたこともあって経営再建に成功したりそなは、昨年6月に公的資金を完済した。

「同一労働同一賃金を実現し、『非正規』という言葉をこの国から一掃します」

 安倍晋三首相は今年8月3日、内閣改造後の記者会見で熱弁をふるった。改造の目玉としてこの問題を担当する「働き方改革担当相」を新設し、政権の看板政策の一つと位置付ける。なぜ今、同一労働同一賃金なのか。

●欧州並みの7~9割に

 バブル崩壊後の1990年代以降、企業は人件費を削るためにパートや派遣といった非正社員(非正規労働者)の比率を高め、最近ではほぼ4割に達している。正社員とほぼ同じ仕事を担う非正社員も少なくないが、一般的に正社員との賃金格差は大きい。正社員の職を望みながら機会を得られない「不本意な非正規雇用」が若い世代で特に増え、稼ぎ頭が非正社員という世帯も珍しくなくなった。これが格差拡大や、景気の足を引っ張る消費不振の一因とも言われる。安倍政権にとって、非正社員の処遇改善が優先課題に浮上しているのはそのためだ。

 日本のパート労働者の賃金水準はフルタイムの6割弱にとどまるが、これを欧州並みの7~9割に引き上げる──。政府はこんな目標を掲げる。関連法を改正し、正社員との不合理な賃金格差を防ぐ規定を明確にするなどして実現を目指す方針だ。

 ただ、すんなりいくとみる専門家は少ない。日本と欧州では雇用システムが根本的に異なるからだ。

次のページ