欧州では、働き手が担う仕事に応じた賃金が支払われるのが基本だ。働き手の賃金は、企業の枠を超えた職種や産業別の労働組合と経営側との交渉によって決まる。仕事が同じなら、雇用形態の違いによる賃金格差がもともと生じにくい仕組みだ。

 戦後日本で大企業を中心に広まった雇用システムでは、正社員の賃金は担っている仕事に応じて決まるわけではない。新卒一括採用と長期雇用を前提に、勤務先の企業でキャリアを積むほど年功的に賃金が上がる。同一のポストで同じ仕事をする場合でも、年次が上の社員のほうが賃金が高いのがふつうだった。

 90年代末ごろから「成果主義」の導入が拡大したが、全体として見れば年功賃金的な性格はなお色濃く残る。一方、日本でも非正社員の賃金は「担う仕事の市場価格」によって決まる。

「今の日本では、正社員と非正社員の賃金は異なる仕組みで決まっています。同一労働同一賃金の実現の難易度は高い」

 リクルートワークス研究所の中村天江・労働政策センター長はそう指摘する。

●経営危機が背景に

「同一労働同一賃金」という言葉の定義自体についても議論はあるが、りそなのように明快な制度を導入している国内企業はきわめて珍しい。りそなも以前は典型的な日本型雇用システムを採用していたが、抜本的に制度を改革できた背景には、深刻な経営危機という特殊事情があったのも確かだ。

 正社員と非正社員を「担っている仕事」という同じモノサシで評価する手法ひとつとっても、同一労働同一賃金の実現に向けては難題が山積みだ。ただしうまく導入できれば、介護子育てといったライフステージに合わせた多様な働き方を選べる制度の普及に向けた突破口となる。

 再びりそな銀行の事例を紹介したい。三ツ橋さんと同じ東久留米支店の窓口で投信や保険を勧める正社員の金森佳奈子さん(46)は今年4月、りそなが新たに導入した「スマート社員」になった。正社員だが勤務時間が限られ、大震災級の非常時を除いて時間外の勤務はしなくていい。時間あたりの職務給はふつうの正社員と同じだが、賞与の水準は7割程度だ。

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