乳がん患者は増加傾向にある。国立がん研究センターは、2015年の乳がん罹患数を約9万人、死亡者数を約1万4千人と予測。死亡者数は05年と比べて約1.3倍だ。大きな原因はライフスタイルの変化と言われる。前出の河野さんは、欧米型の肉中心で脂肪の多い食生活に変わってきたこと、晩婚化で初産年齢が上がってきたことも因子の一つだと指摘する。乳がんが「先進国のがん」と称されるゆえんだ。

●授乳期は発見に遅れ

 厚生労働省のデータによると、患者のうち最も多いのは40~50代で、35歳未満の「若年性乳がん」は約2.7%とわずか。ただ、若年性乳がんは数は少ないものの、麻央さんのように深刻になりやすいという。がん研有明病院乳腺センター長の大野真司さんの研究では、35歳未満の場合、35歳以上に比べて、経過が思わしくないケースが多いという結果が出た。さらに同データからは、若年性乳がん患者には、ホルモン剤やある種の抗がん剤が効きにくい悪性度の高い「トリプルネガティブ」というタイプの乳がんが多いこともわかっている。

 麻央さんは、11年7月に長女の麗禾ちゃん、13年3月に長男の勸玄くんを出産した。一般的には出産経験は乳がんにかかりにくい因子とされるが、一方で、出産、授乳期はがんの発見が遅れてしまうこともある。

「授乳期は乳房が張っていることが多いので、しこりを自覚しにくい。産婦人科の医師に相談しても、この時期にはよくあることと深刻に考えず、乳がん検診を勧められるケースも少ない。必然的に発見が遅くなるので、出産、授乳期に発症した乳がんは症状が進んでしまうことも多いのです」(河野さん)

 早期発見の王道は、定期的に乳がん検診を受けることだ。検診は、主に超音波(エコー)検査と乳房エックス線(マンモグラフィー)検査に大別される。河野さんは「30代女性なら超音波検査がいい」と話す。

「若い女性は乳腺が厚いので、エックス線の透過性が悪く、乳腺の中にしこりがあっても描出されにくい。技師の経験に左右されにくいという意味でも、超音波のほうが客観性が高いと言えるでしょう。もちろん、両方の検査をするのが理想ですが、『マンモグラフィーは痛いから嫌だ』という理由で検査を敬遠している方は、まず超音波検査だけでも受けてほしい」

 がんに罹患した身内がいる「家族歴」のある人は、特に早めの検診を心掛けたい。生活習慣や社会的要因よりも遺伝的要因が強くなるからだ。河野さんによると「男性乳がん」が身内にいた場合、遺伝的要素が濃くなるので注意が必要だという。

●乳房に「ありがとう」

 麻央さんの場合もそうだが、子育て世代が発症した場合、子どもに病気をどう伝えるかも、非常に悩ましい。海老蔵さんは会見でこう話した。

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