判決では、どのような場合に家族が監督義務者となるか、具体的な基準は示されていない。被害者が大企業ではなく個人であっても賠償を免じてよいのか、という課題も残る。

 公益社団法人・認知症の人と家族の会副代表理事で、川崎幸クリニック(神奈川県)院長の杉山孝博医師は、認知症の人が第三者に損害を与えた際の救済制度が必要だと考えている。

「認知症の人による事故は、注意しても完全に避けられるものではない。誰もが加害者・被害者の両方になり得る。加入者を限定した保険ではなく、犯罪被害給付制度のように国レベルの救済制度にしなくてはならない」

 一案として、公的介護保険に被害者給付を組み込むことを提案する。認知症の人が加害者になった場合、介護保険を財源として被害者に補償するのだ。

「一から新たな制度をつくるより、コストも時間もかからない。介護保険財政はすでに厳しく、誰がどう加害行為を認定するかなど課題は多いが、工夫の余地はあるはずだ」(杉山医師)

(ライター・越膳綾子)

AERA  2016年3月21日号より抜粋