自治体によるが、子どもの医療費には助成があり、大人より薬の費用もかからない。薬を「もらいすぎ」てしまう背景になる(撮影/谷本結利)
自治体によるが、子どもの医療費には助成があり、大人より薬の費用もかからない。薬を「もらいすぎ」てしまう背景になる(撮影/谷本結利)

 子どもに処方される薬について悩む親は多いはず。特に「飲み切って」と言われる抗生物質は飲むべきかなのだろうか。

 幼少期の子どもを育てる親からは、「かかる病院によって出す薬の種類や量が違う」「いつまで飲み続けたらいいのかわからない」などと、薬への不安の声が聞かれる。特に、ステロイド剤や風邪などの症状でも処方される抗生物質は、「よく効く薬」とされる一方で、効き目が強すぎたり副作用を心配したりして、小さい子どもにどれくらい使っていいのかを心配する声は多い。

 一般的に「抗生物質」と呼ばれる抗菌薬の処方について、新潟大学医歯学総合病院小児科の大石智洋助教らは、新潟県内の小児科医に調査を実施。169人(うち開業医67人、勤務医98人、記載なし4人)から回答を得て、2009年に発表した。

 それによると、「前日から発熱(38度以上)し、症状から鼻咽頭炎(びいんとうえん)と診断した子どもに抗菌薬を使用するか」の問いに、「処方する」と答えた医師が48%、「まずは処方せずに経過をみる」と答えた医師が47%と、見解が二分していた。開業医と勤務医とに分けてみると、開業医の64%が「処方する」と答え、勤務医の36%を大幅に上回った。

 同じ症状でも医師によって判断はこれほど異なるのだ。発熱や鼻水、のどの痛みなどが生じる、いわゆる「風邪」は、そのほとんどがウイルス感染によるもので、細菌を殺すための抗生物質に直接的な効き目はないとされる。むしろ抗生物質を乱用すると、体内に耐性菌が増殖し、感染症治療を難しくする恐れがあり、「小児呼吸器感染症診療ガイドライン」(日本小児呼吸器疾患学会・日本小児感染症学会発行)では、乱用を抑制する指針が示されている。

 だが、医師が抗生物質を処方する背景を大石さんはこう説明する。

「検査の物理的、時間的制約がある中で早期に判断を迫られる医師が、『念のために』と処方するケースが考えられます。特に子どもの場合は重症化したときのリスクが高いので、医師が前もって処方する傾向があるのかもしれません」

 風邪と似たような症状であっても、インフルエンザやRSウイルス感染症はウイルスによる感染なので抗生物質は効き目がなく、一方、溶連菌感染症やマイコプラズマ肺炎には有効とされる。ただ、初期の段階で症状を明確に区別することは実際には難しい。そのうえ、鼻やのどなどからウイルスや菌を検出する簡易検査キットで症状を判別しても、100%正確ではないため、重症化や細菌による二次感染を予防するために抗生物質を処方している可能性があるのだ。

 現在は検査キットやワクチンの普及でガイドラインに沿った治療が進み、「調査時よりも抗菌薬(抗生物質)の過剰投与は減っている」(大石さん)というが、必要以上に子どもへ抗生物質を与えないためには、たとえ医師から処方されたとしても、このケースは本当に必要かどうかをきちんと確認することが、親側にも重要なようだ。

 ただ、細菌感染と診断されて抗生物質を飲み始めた場合、表面的には症状が回復したように見えるからといって、自己判断で服用を中断すると症状が再発したり、菌の増殖につながったりする恐れがある。患者の自己判断で服用をやめることは避けるべきで、大石さんは言う。

「医師の親への十分な説明が不可欠です」

AERA 2014年10月27日号より抜粋