65%の小学生が「今はない仕事」に就く時代。
ロボット、3Dプリンティング、ゲノム、先端素材、再生可能エネルギー……。
10年後に伸びる分野を支えるのは、テクノロジー+αだ。(編集部・齋藤麻紀子)
ミドリムシを使って食糧問題や環境問題の解決をしようと研究する、バイオベンチャー「ユーグレナ」の出雲充社長は、もともとは東京大学文IIIに入学した文系男子だ。
「バイオの仕事をするために、バイオの勉強から入るのはナンセンス」
と言い切る。2005年には世界で初めて、ミドリムシの大量培養に成功した。当時、専門家は口を揃えて言った。
「ミドリムシは食物連鎖の最下層の生物。すぐに食べられちゃうから、大量培養はできないよ」
専門家なら常識的に言えば無理と考えるが、「食糧不足の問題を解決したい」という熱意で突破した。発酵技術を参考にするため、北海道のチーズ生産者や、京都の漬物屋さんなど全国各地を、現在の取締役、鈴木健吾さんと訪ね歩き、培養法を見つけた。今のところ、ほかに大量培養を成功させた者はいない。
●全く新しい概念を生む
出雲社長は「食糧問題解決」という目的を見つけ、その方法としてミドリムシが役立つと知り、東大で3年生への進学時に農学部に転部した。
「ミドリムシの研究からスタートしたら、大量培養できないという常識にぶつかっていた。『何に役立てたいか』という出口を意識したことで、イノベーションが生まれた」
どの業界においても、技術革新はすでに飽和状態にある。素早く汚れが落ちる洗濯機に、燃費がいい自動車など、商品をさらにバージョンアップさせる競争が続いている。だが、10年後に必要になるのは、いままでにはない全く新しい概念の商品やサービスを生み出す「発想力」だ。
昨年、研究機関のマッキンゼー・グローバル・インスティテュートは、2025年の経済に影響を及ぼす12の技術を発表した。あらゆるモノをインターネットにつなげる技術「IoT(Internet of Things)」、グーグルが買収を急ぐロボット分野、日本でも1兆円市場ともてはやされる3Dプリンティング、遺伝子研究を医療に応用するゲノム分野……。
これらの分野に直結する学部は、ロボット工学や人間工学、情報通信、遺伝子工学やバイオサイエンスなどだ。それらの専門性のニーズは今後さらに高まるだろうが、必要なのは専門知識だけではない。
3Dプリンティング事業を行うJMCは、社長が文系出身で、社員の半分も文系出身者。だれもこの技術に注目していなかった15年前から、事業を始めた。
取材に訪れた日も、人間科学部、法学部、音大出身など、「文系脳」の社員たちが活躍していた。相手にするのは医療機関。JMCには、毎月20~25件ほど「頭蓋骨」の注文が入る。