今の時期、特に気をつけなければならない熱中症。熱中症になりやすいのは、炎天下で、スポーツをしたり、働いたりする人たち、屋内でも体力のない高齢者が典型的だ。しかし、いずれにも当てはまらなくても、熱中症になりやすい人がいるのをご存じだろうか。
高血圧や糖尿病などの持病がある人だ。しかも、そうした持病の人は、脳梗塞を起こすリスクも高いという。
日本救急医学会「熱中症に関する委員会」委員長で昭和大学病院救命救急センター長の三宅康史教授は、「あまり知られていませんが、持病を持った人たちも、子供や高齢者と同様に熱中症にかかりやすいハイリスク群です」と指摘する。
なぜ高血圧だと熱中症になりやすいのか。まずは体温調節のメカニズムを見てみよう。気温が高くなったり身体を動かしたりすると、人間の体温は上昇する。そこで、我々は汗をかいたり、皮膚の血流を増やしたりして身体を冷やし、体温を一定に保とうとする。
汗は蒸発するときの気化熱で体温を下げる。皮膚の血流が増えると、体内の熱を帯びた血液が、体温より低い外気温にさらされて効率的に血液が冷やされ、冷やされた血液が心臓に戻っていく過程で、体温を下げる仕組みである。
ところが、大量の汗をかくと、体内の水分と塩分が失われる。脱水状態になると、血液量が減るうえ、いわゆる「ドロドロ血」と呼ばれる粘度の高い血液になる。また、塩分が失われると、さらに血液量が減少する。流れにくい少量の「ドロドロ血」を押し流すには、ポンプ役の心臓に大きな負担がかかる。
また、血液量の減少が進むと、手足の先や臓器への血流が落ち、最終的には脳の血流が低下して、死に至る。これが熱中症である。日本高血圧学会が推奨する1日あたりの塩分摂取量は6グラム未満(WHOの推奨摂取量は5グラム未満)だが、日本人の平均摂取量は男性で11グラム強と多い。したがって、1日3食きちんと食べている人なら、汗をかいてもすぐに塩分不足にはなりにくい。
しかし、高血圧の人は、血圧を下げるために減塩食を心がけているため、一般的に、発汗による塩分不足となりやすいのだ。
さらに、最近の降圧薬は利尿薬が配合されていることも多い。つまり、医師に処方された薬を欠かさず飲み、減塩食を実践しているまじめな人ほど、体内の水分と塩分が不足する可能性が高まる。その結果として、熱中症になりやすい、というわけである。
※AERA 2013年8月5日号