※写真はイメージです (GettyImages)
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 作家・コラムニスト、亀和田武さんが数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「ビッグコミックオリジナル」(小学館)。

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 最後の一誌は、何を取りあげるか。いろいろ悩むかと思ったら、案外すっきり決まった。「ビッグコミックオリジナル」(小学館)だ。意外かな。

 月2回刊の「オリジナル」を欠かさず読みだしたのは17年からだ。能條純一「昭和天皇物語」、伊藤潤二「人間失格」、山本おさむ「赤狩り」が、ほぼ同時にスタートし、3作とも挑発的なテーマに挑み、目が離せなくなった。「人間失格」なんて、太宰治の原作よりエロくて不気味で黒い笑いがあった。

 攻めてるなあ、「オリジナル」という印象を抱いた。その後も同誌は、女性保護司の苦悩を描いた「前科者」など社会派マンガを掲載しつつ、少女マンガ風タッチの描線で、映画マニアの家政婦ヒロインが登場する「ミワさんなりすます」も巻を重ねている。開始直後からドラマにぴったり、私がテレビマンならキャスティングはどうするかとか妄想は膨らんだが、ついにドラマ化が決定したという。

 前号からは、珈琲マニアの青年が喫茶店経営に乗りだし、常連の喫煙客対策に悩む渋谷直角の、ほんわかタッチ「サテンdeサザン」が始まり、最新の5月20日号からは、東村アキコの自伝コメディー「まるさんかくしかく」もスタート。昭和60年の宮崎。主人公は小学4年生で、ソウルフードのチキン南蛮と水島上等兵の話が笑えた。

 増刊号も「オリジナル」は読ませる。海辺の街の不穏さと、脚が鱗(うろこ)化する女性教師のエロスを描く、むつき潤「ホロウフィッシュ」は文句なしの傑作。

 漫画編集者と漫画家を描く松本大洋の「東京ヒゴロ」のペンタッチとテーマは空前絶後だ。この時代、「電車や飯屋でスマホ使うて読みよる相手」に漫画家と編集者は一体どう向き合うのか。こんなシリアスな作品が載る雑誌が好きだ。

週刊朝日  2023年5月26日号