西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)さん。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「母を思い父を思う」。

*  *  *

【ご無沙汰】ポイント

(1)先に逝ってしまった人のことは、忘れることが多い

(2)筆頭は両親。日頃はすっかり忘れてしまっている

(3)あの世で会う前に時々、両親のことを思い出そうと思う

 先に逝ってしまった人のことは、日々の生活のなかで忘れてしまうことが多いものです。ですから、あの世に行って再会したら、まずはご無沙汰を陳謝しなければいけないと思っています。なかでも私が謝らなければいけない筆頭は、両親です。日頃、すっかり忘れてしまっています。

 母親は天性の商人でした。お店でお客さんの相手をしているのが、好きで好きでたまらない人だったのです。年中無休。朝から晩まで立ち働いています。その上、太っ腹で、大抵のことは動じません。通知表を見せても、にこにこして一瞥するだけで、勉強しろなどと言ったことがありません。

 唯一、私の学業に関わったとしたら、中学3年のとき、近所の奥さんの勧誘に付き合って、私を学習塾に行かせたぐらいです。でも、そのおかげで私の進路が開けました。

 私は東大に入ったものの、2年後の医学部進学試験で失敗しました。翌年、再挑戦するときには、大学を退学する必要があり背水の陣でした。まあ私自身はそれほどの気持ちでもなかったのですが。ところが、合格してからわかったのですが、母親が私の合格を祈願して、近くの成田山川越別院でお百度参りをしていたというのです。そんな人とは思っていなかったので、心底驚きました。

 家を出て、大学の近くに下宿してからは、お金がなくなると、母親に小遣いをせびりました。するといつも、ニコニコしながら必要なだけ渡してくれました。母親には女傑の風情がありました。

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら
次のページ