若い会社員たちが行列しているラーメン店にも見るからに味が濃そうな「コク旨味噌ラーメン」の写真が掲げられている。行列している30代男性はこの店に週3回通う常連だという。

「今日は看板メニューのコク旨味噌ラーメンと半チャーハンの予定。ここ、安くてウマいですよ。濃い味の良さ? お得感あるでしょ? コスパいいっていうか、食べた感大きいし」

 この30代男性の後ろに並んでいた20代男性2人組も「食べた感は大事。昼はガッツリいきたいから、味が濃いほうがいいっすね」と口をそろえる。

 外の行列の人たちに注文を取りに来た店員は「少なくとも濃いめの味付け、見た目の商品のほうが人気なので、濃いめのメニューが増えてきたというのはあります。今の人気ラーメン店はたいていが濃厚スープやニンニク増し増しみたいなメニュー出してると思いますよ」と話してくれた。

“反・濃い味派”の高齢者には不評でも、“濃い味派”の若者に大歓迎され、濃厚メニューが巷に増殖しているという構図があるようだ。

「確かなエビデンスがあるわけではありませんが、実感として“濃厚”と名の付くメニューは多いです」と言うのは、科学分析を基にした食品情報などを提供している「味香り戦略研究所」の早坂浩史研究開発本部長。

「販促という面からいうと、薄味よりも濃厚な味のほうがお客様に伝わりやすいという面はあると思います。特に“コスパ”や“タイパ(タイムパフォーマンス)”を重視する若者たちには、長く続く不景気の中で、この価格でしっかりした味が楽しめると感じられる濃いめの味付けはお得感も伝えやすいのではないでしょうか」(早坂本部長)

 早坂本部長はさらに、日本の食文化の観点からも濃い味人気の理由を説明した。早坂本部長によると、日本の味は“うま味”が中心になっているが、うま味は塩気と合わさるとおいしさが感じやすくなるという。

■背徳感を楽しむチートデー感覚

「例えば、各国のカップ麺を比べてみても、日本より暑くて塩分が必要なはずの東南アジアのほうがしょっぱくないんです。東南アジアでは塩気の代わりに、甘さ、酸っぱさ、辛さを強くしているからです。うま味と塩気は日本の味覚のDNAみたいなもので、梅干しや塩鮭の切り身が代表。加工品メーカーや外食産業は、消費者をリピーターにさせるために、人間にとって報酬系の味覚とされる塩気と甘さを強めたがる傾向はあります」(同)

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