そう言ったのだった。

 自分はハルバースタムに比べるべくもないが、しかし、以降、行動原則として、人に会うときには、できるだけ準備をして会うようにしている、そう学生に話をした。政府関係の仕事についた私の知り合いが、今年になって大手紙の記者が取材をしにきて、手土産をわたそうとしたことにふれていたから、私のところに来た学生ももしかしたら、新聞記者からその作法を伝授されたのかもしれない。

 昨年9月に、『孤独のグルメ』の原作者の久住昌之さんが、インタビュー依頼について「報酬と著者校正」なしは断っている、<新聞社の態度は、時代錯誤で非常識>とツイートした(第24回参照)。その際、当の新聞記者や元新聞記者たちまでもが、取材の際に謝礼を払わなければ失礼だの、原稿を事前に見せるのは当然だのと、SNSで発言していたから、それが今の常識だったりするのかもしれない。

 しかし、かつては記者をしていたその政府関係者は、<「記者がこんなことするもんじゃないですよ」と、ピシャリ言わせてもらいました>とフェイスブックに書いており、正解はそのとおりだと思う。

 ハルバースタムが『覇者の驕り』で日産を取材したとき<日産はあまり協力的とは言い難かった>(『覇者の驕り』あとがきより)。

<このことのマイナス面は、多くの時間が浪費されたということだったが、逆にプラス面としては、この結果私は非公式の情報源をみつける努力を一段と強めたということだ>

 あるいは、名作『ソニー ドリーム・キッズの伝説』(2000年)を書いたジョン・ネイスンの「まえがき」。

 ジョン・ネイスンがソニーのことを書きたいと広報に申し入れた時「で、いくらほしい?」と聞かれたという話のあとにネイスンはこう続けている。

<私が意図しているような内部の歴史は、会社の紐付きで書いたのでは誰もまじめに相手にしてくれない>

<まともな出版社に話を持っていくには、私が希望する人物には誰にでも会えることを保証したうえ、でき上がった原稿を検閲したり、承認する権利を一切放棄するというソニーのお墨付きが必要>

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