松尾:そういえば私の披露宴の時も「フランス料理なんざ食いたかねぇ」と騒いで、近くにいた松村邦洋に「おい、冷ややっこ買ってこい」って。でもあいつ賢くて、椿山荘の中の日本料理屋で豆腐をもらってきて、「よくやった」と褒められてたな(笑)。なんとなく、自分がどこまで許されるのか、キワキワを楽しんでたんじゃないかという気はしますね。

渡部:でも、それはつらい生き方ですよね。

志の輔:ですよね。弟子にまねはできません(笑)。その内面がこの似顔絵によく出てますね。私が最初に松尾さんに会ったのは、山藤先生プロデュースの談志も出た紀伊國屋ホールでしたね。

松尾:もう40年近く前。

志の輔:松尾さんが落語「くしゃみ講釈」をやったんですよ。そのうまかったこと! 談志が「どこのやつなんだあいつは」と褒めたくらい。

松尾:いやいや……。師匠には「立川流に入れ」ってずっと言われてたんですけど、僕「家のローンが終わってからでいいですか?」って(笑)。着物まで作ってくださったんですけどね。

志の輔:え、誰が?

松尾:談志師匠が。「またご冗談を」なんて言ってたら、事務所に鼠(ねずみ)色のちりめんの左三階松の紋が入った着物と、羽織と帯と絹の襦袢のセットがドサッと届いて。後日、その着物を作ったという方に偶然お会いしたんですけど「安かないです」とおっしゃってました。

志の輔:今日、唯一聞きたくなかった話だなぁ……。

全員:(爆笑)

志の輔:弟子が一度だけ師匠から「お前ら全員にプレゼントだ」と気前よくいただいた着物は、確か当時は安かった洗える着物でしたよ(笑)。

渡部:談志師匠の似顔絵のおかげで知られざるお話が(笑)。志の輔さんのモノマネも堪能できたし、選んで本当によかった。

志の輔:結局、いつもこうなんですよ。似顔絵一枚あるだけなのに、気がつけば全部談志の話で盛り上がるんです(笑)。海外での私の独演会の打ち上げでさえ、誰かが「昔、談志師匠がおいでになった時の写真です」と一枚出した瞬間から、「その時談志さんがですね……」とその場の全員が、残り時間全部、師匠の話で盛り上がるんです(笑)。私はこの先もずっと師匠の行ったところをなぞるように行き、ファンの皆さんに「私の談志噺」を伝え続けるんでしょうね……。

松尾:財産であり、呪縛であり、ですね(笑)。

(構成/大道絵里子)

週刊朝日  2022年12月30日号