西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)さん。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「教えられたこと」。

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【寄り添う】ポイント

(1)対本宗訓さんに教えられた言葉が心に残っている

(2)対本さんは「死は命のプロセスのひとつだ」と言った

(3)対本さんはその後、言葉通りのことを実行された

 いままで生きてきた86年の間に、多くの人から多くのことを教えられました。年上の方からだけでなく、年下の方からも教わることがたくさん、ありました。

 そのなかでも、対本宗訓(つしもとそうくん)さんに教えられた言葉はいまでも心に残っています。対本さんは以前にも紹介しましたが(2020年8月14‐21日号)、臨済宗の管長だったときに、医学部に入り直して医者になった僧医です。私が出会ったのは、対本さんが医学部に入る以前のことで、もう30年ぐらい前になります。

 その頃私は、丹田呼吸法の調和道協会の3代目の会長を務めていて、谷中にある臨済宗の名刹、全生庵で月に2回開かれる「清風仏教文化講座」の講師もしていました。まずは鎌田茂雄先生など仏教関係の方が1時間ほど講話をした後、私が30分ほど呼吸法に関する話をして、最後に調和道協会の若手による実修を行うというものでした。私の時間は、呼吸法だけでなく医学や医療についても話が及ぶことがありました。聴衆は患者さんや医療関係者を含めた様々な方たちでしたが、時々、一人の僧侶がそっと最後部の席に着くことがありました。それが、対本さんでした。

 ある日、私が話を終えて本堂の入り口に向かうと対本さんが話しかけてきました。

「いつも先生のお話を興味深く拝聴しております。先生が日頃おっしゃっている『医療の本質は患者と治療者が寄り添い合うことである』ということ、私も同感です。ただ医師や看護師さんが寄り添うのは、多くは体だけではないでしょうか。せいぜい、心までです。命に寄り添う人は、まずいないと思うのですが、いかがでしょうか」

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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