「目安は『悪夢が連日続いているか』『睡眠不足が日中の生活を妨害しているか』の2点。悪夢を見て眠れない状態が週に3~4日以上続き、仕事など日常生活に支障が出る状態が続くと心配です。精神科の受診を検討してみてください」

■睡眠中に妻殴打 神経疾患が関係

 悪夢と結びつきやすい疾患には、どのようなものがあるのか。よく名前が挙がるのはうつ病だが、「実は精神科医の間でも、悪夢とうつとは関連が高いとはそれほど思われていません。うつの場合は、気分が沈んだり、意欲が出なかったり、食欲や睡眠、体調の問題、極度の後ろ向きな思考など、確かなサインを伴っていることが多いです」と西多准教授は言う。

 他方、悪夢との関連性が高いのがPTSDだ。

「戦争や災害の文脈で語られることが多いですが、いじめやハラスメントを受けても発症することがある。悪夢に加え昼間のフラッシュバックなど過覚醒を伴う場合、可能性が疑われます」(西多准教授)

 そのほか、高齢者の男性に多い障害にレム睡眠行動障害がある。人間の睡眠には眼球がキョロキョロと動く「レム睡眠」と、レム睡眠以外の「ノンレム睡眠」という二つの状態があり、特にレム睡眠の時ほど、鮮明な夢が生じやすいと言われる。レム睡眠の最中は脳からの運動指令を遮断する機能が働き、腕や脚などの筋肉を活発に動かすことができない。ところがレム睡眠行動障害では、夢と行動とが結びつき、「睡眠中に怒鳴り散らす」「誰かから逃げ回るように徘徊する」「隣で寝ているパートナーを殴りつける」といった症状が表れる。

 会社員の場合、部下に指示しているような言動が見られることもあるという。背景には脳の神経疾患が関係していると見られ、特にパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症など、脳や脊髄にある特定の神経細胞が徐々に障害を受け、脱落してしまう病気の前駆症状である可能性が指摘されている。

「レム睡眠行動障害の場合、本人には自覚がなく、ケロッとしていることも少なくありません。下の階で寝ていても夫や父親の寝言が聞こえるとか、徘徊していて近所から苦情が来たといったことがあれば、可能性を疑っていただけたらと思います」(同)

 夢は自分の心身の状態を教えてくれる目安のようなもの。ぜひ一度、現実的に向き合ってはいかがだろう。(本誌・松岡瑛理)

週刊朝日  2022年12月2日号