写真はイメージ(Getty Images)
写真はイメージ(Getty Images)

 寝ている間に夢を見ない人はいないだろう。自分の意思ではコントロールできず、不思議な展開をすることも多い夢には、一体どのような意味があるのか。夢研究の第一人者として知られる研究者に聞いた。

【図表】悪夢は脳の神経疾患が関係していることも? パーキンソン病の特徴的な4つの症状がこちら

*  *  *

 悪夢を見て夜中に目を覚まし、「この夢にはどんな意味があるのか」と考え込んでしまった経験はあるだろうか。

 大手出版社に勤める40代の編集者・アユミさんには、最近見た中でひときわ印象に残った悪夢がある。夢の中で、アユミさんは職場の上長から指示を受け、見も知らぬ誰かを殺している。自分が殺されないために誰かを殺した──そう言い訳をし、現場から一目散に逃げていく。場面は変わり、アユミさんは車の中。隣には実父が座っているが、実家で一緒に暮らしていた頃に比べ、明らかに痩せている。そう指摘すると父親は急に泣きだし、「自分はPTSD(心的外傷後ストレス障害)だ」「人生を振り返るとこうならざるを得なかった」とアユミさんに訴えてきた。「殺したから、殺されない。もう大丈夫だよ」と父親に声をかけ、車は走り抜けていく。そこで夢は途切れ、目が覚めた。アユミさんは、「人を殺したり、『PTSD』という具体的な単語が出てきたりと、生々しい感じがしました。数日前に担当した本が校了し、解放感を抱いていたところで、このタイミングでどうして悪夢を見るのかも不思議でした」と振り返る。

 自分の脳内の現象なのに、いつ悪夢を見るかは予測できず、筋書きも内容も決められない。考えてみれば不思議だが、そもそも夢にはどんな役割があるのか。臨床心理学の立場から夢についての聞き取り調査や悪夢を減らすための心理療法を行う東洋大学社会学部の松田英子教授(博士・人文科学)はこう指摘する。

「人の脳は日中、膨大な量の情報をインプットし続けていますが、睡眠中は活動が縮小し、入ってきた情報を整理している。図書館の客足が途切れた時間帯のような状況下、情報を弁別し、いらなくなった記憶を処分したり、新しい記憶を古い記憶と関連づけたりすることが夢の役割だと言われています」

次のページ