フジコ・ヘミング(撮影:植田真紗美)
フジコ・ヘミング(撮影:植田真紗美)

「私、ケチですよ(笑)。長いこと貧乏で、苦労したから。宝石なんかも好きだけれど、ニューヨークで、20年ぐらい前に買った年代もののダイヤモンドがあって、それが一つあれば十分。二つ目はいらない。家にあるワインなんて、みんないただきものですよ」

 フジコさんは、南ドイツでピアノ教師をしている50代の前半に、急にベジタリアンになった。友人に影響され、肉や魚、卵などの動物性たんぱく質を摂取しないようにしたら、途端に更年期障害の症状がおさまったのだという。

「そもそも、私が子どもの頃の日本人は、肉なんてそんなにいっぱい食べなかった。母があるとき、ドイツに送ってくれた手紙に、『じゃがいもとトマトで医者知らず』と書いてあって、実際に、お金もなくてお肉なんてそうそう食べられなかったから、主食をトマトとじゃがいもにしたら、15年間医者に行かずに済んだこともある。日本にいるときも、お茶漬けとかお漬物なんかが好きで、あんまり加工してある食べ物が好きじゃない。でも、生野菜のサラダなんて、毎日食べられるものじゃないから、通販で売ってる、お水で溶かす青汁なんかを飲むようにしてます」

 収入をの餌代にあててしまって、自分は砂糖水をすすって1週間を過ごしたこともあるせいだろうか。フジコさんはいつも、「世間には本当に食べるものがない、飢えてる人が大勢いる」と、弱者への視線を忘れることがない。

「お金持ちは、食べ物を必要以上に用意して、食べきれなかったら、いとも簡単に捨てたりするでしょ? 世の中に大勢いる、今困っている人たちのことを、考えてあげない人がいっぱいいるのが、私は寂しい。パリでも、たくさんの人が道端で物乞いをしているから、私は、外に出るときは、1ユーロ硬貨をたくさん用意して、物乞いの人の前に置かれた空き缶とかお皿に置くようにしている。でも、友達は、『あの人たちは、実は庭付きの家に住んでいて、働くのが嫌だから物乞いをしているだけ。やめなさい。あなたは騙(だま)されている』なんて言うの。そんなことはないと思うんだけど、たとえそれが本当だったとしても、騙されたっていいじゃない。1ユーロなんて、せいぜい100円ちょっとなんだから」

次のページ