「コロナ禍で私も共働きの妻も在宅勤務が増えて、一緒にいる時間が増えました。初めのうちは恋愛時代に戻ったみたいに楽しかったのですが、巣ごもり期間が長引いて家事の分担で言い争いになってしまった。激しい口げんかで腹が立って、衝動的に妻に殴りかかりそうになってしまった。辛うじて手を出さずに止めたのですが、自分の中にあるDVの衝動が怖くなってしまった。それをSNSでつぶやいたら、コメントで『そういう相談の窓口があるよ』とフォロワーさんに教えてもらったんです」

 できれば妻には言いたくない“あの瞬間の衝動”、友人や会社の同僚、ましてや親にも相談しにくい悩みをSNSで訴えたAさんは、妻が買い物に出ている間に相談窓口にアクセスしたのだという。

「相談員の方は僕の不安を叱るでもなく、じっくり聞いてくれました。話しているうちになぜか涙がボロボロこぼれてきた。相談前は、そんな衝動を持ってしまった自分を罰したい気持ちでいっぱいだったのに、相談しているうちに手を出さずに自分を抑制できて本当によかったと思えるようになった」(Aさん)

 相談はいつの間にか30分以上となり、買い物に出ていた妻が帰宅したため、慌てて電話を切ったという。

 帰宅した妻はAさんの泣き顔を見て、心配そうに「どうしたの?」と聞いてきた。Aさんはその瞬間、「すべて告白しよう」と思ったという。

「けんかしたときに殴りそうになったこと、そんな自分を責め続けたこと、それでさっきまで電話相談をしていたこと。そして、今自分が考えていることなど、全部話しました。妻は真剣に聞いてくれましたが、最後は笑って『あなたのそういう真面目なところが好きよ』と言ってくれて救われました(笑)。一歩踏み出して、相談窓口にアクセスして本当によかったと思います」

 この話には続きがある。

「その数日後、妻から『言おうか言うまいか迷ったけど言うことにした。私は腹を立てて、あなたを包丁で刺そうと思ったことがある』と言われました。それから『あのときの言い争いはけんかとは思ってないの。話し合いとか議論でしょ?』とも。妻のほうが一枚も二枚も上手なんだと痛感しました」(Aさん)

 今もそろってリモート勤務が中心だが、以前より会話が増え、夫婦仲もよくなった気がしていると、Aさんははにかみながら話してくれた。

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