映画「金の糸」から (c)3003 film production,2019
映画「金の糸」から (c)3003 film production,2019

◆抑圧下の思いを映画に込める

 ジョージアの映画について、現在各地で巡回中の「ジョージア映画祭2022」を主催する、はらだたけひでさんは、こう話す。

「ジョージアの重要な映画監督の一人、エルダル・シェンゲラヤがソ連から独立後の一番厳しい時代に、『ジョージア映画はジョージア人のためのものだ』と言っていましたが、ジョージア文化は20世紀に入ってから特に、ソ連の抑圧下で民族としての思いを映画に込め、未来を生きながらえていくように思います。そういう気持ちがこの『金の糸』からも感じられます」

 人が過去と折り合いをつけることはそう簡単ではない。でも、だからこそゴゴベリゼ監督は言う。

「私は2014年に14歳の少年を主人公にした短編ドキュメンタリーを撮りました。その少年は悲劇的な不幸な環境に置かれているのですが、日常にはいろんな喜びや楽しみがあり笑顔がある。戦争や不幸な出来事があったとしても、私たちは人生を喜ぶために生まれてきたんだよ、と訴えた。それが私がずっと考えてきたテーマであり、年を取るごとにその思いはだんだん強くなっています」

「金の糸」はもともと「野の花」というタイトルだった。だが、この映画を作り始めたその後に、ゴゴベリゼ監督は日本の陶磁器の修復技術「金継ぎ」を知って変更したと話す。

「あたかも金の糸で欠片(かけら)を縫い合わせるかのように、金を使って壊れた器を美しく修復して元通りにする。これは(過去との和解の)大変素晴らしいメタファーだと思いました。ひびが入った人と人との関係をいかにきれいに修復するか、つらい過去をいかに美しいものに変えていくか。器を金で修復するように、過去にあった愛や理解、思いやりを思い出して過去を美しいものにする。それは、私たちが生きていくにあたってとても大切なことだと思うのです」

(ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2022年3月25日号